2022.07.24

外交安保

【ウクライナシリーズ⑦】 プーチンの核の脅しに屈してはならず - 核共有から核保有へと飛び跳ねる危険な日本 - 22.07.24

<卑劣にも核兵器を脅しに使う>
 今回の戦争で、特筆しなければならないのは、プーチンの核使用の脅しである。2月24日の突然の侵攻の翌日すぐに、ロシアは最も強力な核保有国の一つだ、いつでも核を使う用意ができている、とTV演説で述べ、実際に核使用の警戒態勢に入るよう命じている。
 戦争を開始して間もなくチェルノブイリ原発の研修棟を攻撃した。これはいざとなったら原発を破壊するぞという脅しである。さすがに原発には手を出していない。ロシア自体も放射能汚染されるからである。

<攻撃されない原発を楯に軍事基地化する巧妙な戦法>
 ところが、6基ある欧州最大規模のザポリージャ原発には、500人を超すロシア軍部隊が入り込み、軍事基地化したという。つまり、原発を破壊すると大事態になることから、それを恐れる敵に攻撃されないと踏んでの狡猾な手法である。
 危うい原発を人質にした、絶対に攻撃されない軍事基地の完成であり、今までにない原発の悪用である。原発の近くで本格的な戦闘が行われなかったことから、軍事の専門家も原発の危機管理者も想定外の展開である。やはり原発は安全保障には鬼門である(「経済安全保障より原発安全保障が先」22.03.25)。

<潔すぎたウクライナの核廃棄>
 ウクライナには旧ソ連時代から引き継いだ多くの核兵器(世界第3位)があったが、1991年独立の3年後、ブダペストの覚え書きにより、ウクライナの主権の尊重とひきかえに核を廃棄している。私は2005年外務委員会でキーウを訪問し、ウクライナ政府と意見交換した折、核兵器を持っていた国なのにそれを廃棄した勇気ある国なので、今後は二度と原発事故を起こさないためにも、原子力発電所を廃止したらどうか、と意見をぶつけている(「霧の中のチェルノブイリ」 2005.11.8)。他のエネルギー源がないので無理、核兵器は平和な時代にはいらない、とつれない答えだった。
 それから今、プーチンが核兵器で脅し、それを恐れたアメリカがウクライナに直接介入しないでいる。だとすれば、ロシアといえども核兵器を持ったウクライナの報復を恐れて少なくとも2022年の侵攻はなかったかもしれない。よもや兄弟国(とロシアは言っている)のロシアからこんな形で主権を奪われるとは予想してなかっただろう。今になって核兵器は手放すべきではなかったと後悔しているかもしれない。

<厳格な日本の非核三原則>
 ここに故安倍晋三首相が言い出した「核共有(Nuclear Sharing)」の理屈がある。しかし、岸田首相は、2月28日の参議院予算委員会で、即座に非核三原則(持たず、造らず、持ち込ませず)から認められない、と否定している。ウクライナ侵攻の連日の報道、北朝鮮の度重なるミサイル発射実験等により、日本国民は防衛力の増強、なかんずく防衛費のGDP1%から2%への倍増等までは支持する人はいても、核兵器となると拒否反応のほうが強い。後から起きた福島原発事故の記憶は薄れたのか、原発の再稼働容認派が増えているが、日本国民は広島・長崎を忘れていない。福島原発事故で直接亡くなった者はいないのに対し、原爆で命を落とした者は、広島約32万人、長崎約18万人の合計約50万人と多く、その後遺症にずっと悩まされている者が多くいるからである。

<「持ち込ませず」をゆるくしたのが「核共有」>
 反核運動が吹き荒れた頃、アメリカの原子力戦艦や原子力潜水艦が、横須賀港等に寄港することに反対のデモが繰り広げられた。核兵器を搭載していたら「持ち込ませず」のルールに反するからである。米側は当然ないというが、その証拠は我々にはつかめない。
 アメリカの核の傘に守ってもらうなら、何も日本の外からでなく、日本の近くにいる艦船や潜水艦に守ってもらってもよいだろう、という考えが生まれてくる。ドイツをはじめとしてNATO諸国では核共有は昔から認めている。いやむしろ常識になっている。

<核共有は核拡散防止条約にも反する>
 既存の核保有国は、これ以上核保有国を増やさないことに躍起になっている。しかし、インド、パキスタン、北朝鮮、そしてイスラエル、イランも核兵器を持っていると疑われている。このようないわば荒っぽい国と違い、日本は国際的な監視下にあり、核保有国にはなれそうもない。そこで、都合よく登場したのが「核共有」である。核共有は、NATO加盟国のうち、米英仏を除く核兵器を持たない国が、アメリカの核を保有して、運搬等使用に必要な航空機を所持したりすることであり、核の傘のより現実的な一歩踏み込んだ対応である。独、白、伊、葡、トルコ等がこの形をとなっている。
 しかし、自国は持ってなくても、アメリカの核を使うことを宣言するようなものであり、我が国の非核三原則のみならず、核拡散防止条約(NPT)にも反することになる。それよりも唯一の被爆国として核兵器は厳然と拒否しながら、ちゃっかりアメリカの核の傘の下あるいは核共有で守られるというのは、かなり自分勝手なことなのだ。ただそんな理屈に合わないことが許されるのは、後述するように、日本に核兵器を持たれるよりはましだという現実的な対応が故である。特にアメリカは日本に通常兵器はいくら装備しても歓迎するが、少しでも核兵器に手を伸ばしたら許しておかないだろう。

<プルトニウムを必要以上に持つことを許されない日本>
 使用済核燃料から出るプルトニウムは、核兵器の原料に転用できる。世界から、日本は核兵器を造る技術力がある国とみられており、世界から日本が核兵器を持たないように厳しい目が向けられている。中国等近隣国からは特に警戒してみられている。そのため、利用目的のないプルトニウムは持たないようにして、削減することを世界に示している。
 その一方で、いつでも原爆は造れるぞという姿勢を示すためにも、一定量のプルトニウムを保持する必要があり、そのためにこそ日本は原発を維持しなければならない、という倒錯した原発容認、原発製造能力維持派が存在する。こんなことだから日本は世界から疑いの目で見られている。
 つい先頃も、日仏政府間で使用済み核燃料について2023年度から26年度までに「ふげん」からの搬出を完了させる合意が成立した。プルトニウムはフランスで民生用燃料として使われる見込みである。海外で保有しているプルトニウムは、2020年時点で、37.2tもあり、うち15.4tがフランスにある。哀れな日本はこうして世界に核兵器を造る意志がないことを示し続けている。

<アメリカを信用するな、というエマニュエル・トッドの指摘は行き過ぎ>
 日本は核兵器から距離を置くことに神経質なまでに拘っている。そうした中で、エマニュエル・トッドは月間文春5月号で、「ウクライナの戦争の責任はアメリカとNATOにある」と断じ、更に日本に自立するために核武装せよと勧めている。
 トッドは言う。「アメリカにとって、戦争はもはや文化やビジネスの一部になっている。なぜなら、戦争で間違いを起こしても世界一の軍事大国アメリカの国民は侵略されるリスクがないからだ。だから間違いを繰り返す。このようなアメリカに頼り切っていては、日本も危ういので、手を出させないように自ら核を持って自立すべきだ」と。つまり、友好国アメリカを信用しすぎるなという警告である。
 一つの考え方であるが、アメリカに依存せず自立せよといっても、辺野古一つ拒否できない国にそんな決断ができるはずもなかろう。国民も世界も日本の核保有など望んでいない。日本は何よりも戦場化を防ぐために地道に賢い外交を続ける以外にない。

投稿者: しのはら孝

日時: 2022年7月24日 09:43