2022.08.07

政治

【安倍首相国会論戦追悼シリーズ➃】 政策の違いを超えて安倍首相の死を悼む -Abeの名は世界にも響き渡った- 22.08.07

<なぜかTPPに取り憑かれた安倍首相>
 16年秋、TPP特別委が設置されると、安倍首相は全ての委員会に出ると言い、事実その通りに出席しどおしだった。異例のことである。私は、野党の筆頭理事として十分な審議を進めるために汗をかいた。

 50数時間の審議を経て可決したが、既にその時はTPPに入らないと明言するトランプ大統領が次期大統領にほぼ決まっていた。その後、安倍首相との蜜月が続くが、肝心のTPPはそのままだった。この違いをおかしいと指摘する者がいないのはおかしなことであった。

2016年10月17日 TPP特委(今回は私の質問は箇条書きにする)
篠原...アメリカは、2001年京都議定書から勝手に脱退している。だからトランプ候補は、日本が承認したTPPに入らないと言い出す可能性がある。
・2人の大統領候補(クリントン・トランプ)はTPP絶対反対であり、次期大統領の意向を考えるべし。
安倍...今やれる私たちのベストは、やはりしっかりと審議をし、日本がリードをとる形で批准をし、米国も促していく。また、米国でこのTPPに対して支持をしている人たちや、あるいは議員の人たちも、日本が批准をすることによってそういう機運を持ち続けることができるという話も伺っておりますので、私は、そういうことではないか、こう考えているところでございます。
篠原...イギリスがEUから離脱したのは、グローバリゼーションに疲れたからでアメリカ国民も疲れている。
・TPPでアメリカのルールに従っていたら、安倍首相の気にする日本の伝統文化の維持もできなくなる、自国のことは自国で決めるべき。
安倍...篠原委員の御指摘は、傾聴に値することが多々あると私も思っております。日本の伝統文化の維持、自国で決める、これはまさに自民党の姿勢そのものでございます。
英国のEU離脱については、確かにグローバル化の疲れなんだろうなと思います。というのも、英国の一割ぐらいの法律については、いわばブラッセルで決める。これは、別にTPPは我々の法律に対して何の介入もしてこない<中略>また、米国のルールで蹂躙されてはならない、これは私もそのとおりだと思います。
篠原...ISDSは、日本の法律なんかにぎゃんぎゃん文句を言って、国に賠償金を払えと、変えようとする。真面目な役人はアメリカに気兼ねして、萎縮効果が相当出てきている。ですから私は絶対反対。

<加計学園>
2017年11月28日予算委
篠原...加計孝太郎さんは無二の親友だから便宜を図ったって、私は文句を言われる筋合いはないと思います。しかし、何事にも許容される範囲があります。官邸が自動忖度機になってしまっている。もう5年も総理をやっておられ大宰相に近づきつつあります。もっと品格をもって正々堂々とやっていただきたい。
安倍...尊敬する篠原先生のお言葉ですから、拳々服膺していきたいと思っている次第ですし、長年の友人でございますが、私の地位を利用して何かしようとしたことは、加計氏は一度もないわけでございます。いずれにせよ、友人であることから、李下に冠を正さず、私自身も反省すべき点は反省しなければならない。このように思っています。

 政治家は、無二の友人に獣医師学部の一つくらい便宜を図ってもよいとかなり強烈な嫌味の質問をしたら、逆に李下に冠を正さず、と反省すべき点は反省すると答弁。意外だった。

<質問時間の与野党の割り振り>
 政府が質問時間の与野党の割り振りを変え、与党議員も質問が多くできるようにという動きがあった。それを打ち消すために、首相と官房長官のかつての質問時間表を作り、別に立派な質問をしたから出世していくんじゃないという、冗談の入った質問をし、かなり軽妙なやりとりが行われた。
2017年11月28日予算委
安倍...私自身のことを詳しく調べて頂いて、篠原委員ほど華々しい質問はしたことがないんですが、ただ、私の場合も、与党議員ではありましたが、予算委員会で当時の高村外務大臣に集団的自衛権の解釈の変更を迫ったことがございます。自慢めいた話になりますが、このことが、我々が解釈を変更する際の基本的な考え方の1つになったのではないかと自負しているところでございます。いずれにせよ、若手の議員も、篠原議員を見習いながら、しっかりとした華々しい質問ができるようになれば、このように願っているところでございます。
篠原...やはり与党政治家と野党政治家は役割が違うので、質問をいっぱいしたって、せいぜい篠原孝程度で、総理になるにはちゃんと与党政治家として活躍するということを諭して頂きたいということをお願いいたしまして、終わらせて頂きます。

<公明党の重鎮議員からの思いがけない指摘>
 18年5月、私も徒に当選を重ねて6期目となり、質問のできない懲罰委員長を拝命した。本会議場の席は公明党との境界線上となり、右隣りの重鎮の議員から「安倍首相は篠原さんの質問の時だけは真剣に聞いて身構えて答弁していたが、篠原さんが質問しなくなってから緊張していない」とお叱りを受けた。
 私自身は質問に集中しているので気が付かなかったが、TV中継をじっと見ている人からも同じようなことを度々言われていた。安倍首相は、気に障ると質問者に容赦なく喰ってかかっていた。私には、そういう態度をとったことが一度もない。

<選挙応援にも好き嫌いが反映した安倍首相>
 16年夏の参院選に、安倍首相が3回応援に入ったのが、岩手、新潟、そして長野である。岩手は苦戦している現役法相の岩城光英の応援であり、優しさの表れである。新潟は憎き森ゆう子落とし。長野の杉尾秀哉もTBSの記者の時代からの因縁で落としに来たのだろう。その後、国会論戦でも、杉尾に対してはきつい野次も飛ばしている。
 首相の座を去っても選挙好きの趣味は変わらなかった。22年夏、一番人を集められる政治家は、岸田首相や河野太郎、小泉進次郎といった人気者でなく安倍晋三元首相になっていた。これが仇となって7月8日に命を縮めることになってしまった。国際的ニュースが流れ、世界も突然の死を悼んだ。

<弔いは自分の気持ちに従って素直にすればよい>
 順調なら安倍首相は長野に8日に入る予定だったが、6日の週刊誌による自民党候補のスキャンダル報道により杉尾候補が大逆転し、自民党候補の目がなくなってしまったため奈良・京都に変更され、7月8日奈良で凶弾に倒れてしまった。予定通り長野に来られていればこんなことにならなかった。
 7月9日選挙戦の最終日、遊説で大声を立てる気にはなれず静かに喪に服し、最終の長野駅前のみ付き合った。7月10日の投開票日には、夜8時の開票報告会までに戻ればよかったので、朝6時に起きて大和西大寺駅の現場まで献花に赴いた。居てもたってもいられなかったからである。
 政治家の功罪など人によって評価が分かれるのが当然である。野党側は安倍首相嫌いが大半であり、国葬問題も国民を巻き込んでかまびすしいが、私は自分の気持ちに従って一日かけて安倍首相の最期の地に駆け付けた。近くの大津から同じく駆けつけていた大岡敏孝環境副大臣から突然声をかけられ、野党議員なのにわざわざ遠くからと驚かれ、写真も撮ってもらった。
写真(献花台にて).jpg
(大和西大寺駅前献花台にて)

 私は本稿をまとめるにあたり、私と安倍首相とのやりとりを一通り読み直してみた。そして、我が国のトップに向かって失礼なことを言っていたことも思い知らされた。お詫びしたいが、もうその機会はない。ただ、安らかにお眠りくださいと言う以外にない。

合掌


(注) 正確にはわからないが、異例のTPP特委を含めると、安倍首相と私の間で行われた質疑時間の合計は上から数えて何番目かに入るだろう。また、安倍首相の答弁から「尊敬する」を含む語句を議事録で検索してみたところ、14回しか使われておらず、そのうちの3回が私に宛てて発せられたものだった。冷やかしもあるだろうが、私の安倍首相への敬意の返礼と思って胸にしまうことにする。

投稿者: しのはら孝

日時: 2022年8月 7日 12:45