2022.10.15

経済・財政

上がるのは物価、下がるのは円、変わらないのは賃金 - 必需品を海外に頼りすぎるツケが回ってきた - 22.10.15

 今臨時国会は、国葬、統一教会、そして物価高である。そこにコロナ対策も入るかもしれない。前2者は、ほぼ語りつくされているので、今回は物価高について報告する。

<記録的円安が物価高騰に拍車をかける>
 安倍政権下、政府・日銀は年2%の物価上昇を目標としてきたが、一向に実現しなかった。そればかりかデフレがずっと定着していた。
 ところが、2021年には、1ドル110円前後だったものが、瞬く間に146円手前まで円安となり、9月22日に日銀が24年ぶりに円買いドル売りの為替介入を行った。一時140.5円までの円高となったが、大方の予想通り瞬く間に146円手前に戻り、10月14日にはとうとうその防衛ラインを超え147円台という状況になっている(10月14日現在)。日銀介入による円安是正は瞬間的なものでしかなく、今後も輸入に頼るものを中心に物価が上がるのは必然である。つまり物価高の原因は生産が滞って物が供給できていないわけでもないし、消費者が購買意欲を高めたからでもなく、食料で言えば、小麦・大豆・ナタネ・砂糖等の原材料が円安の影響で高くなっただけのことである。これはガソリンにも諸々の生産資材にもあてはまる。海外への依存体質が続く中、急激な円安がさらなる物価の高騰の一因となっているのだ。

<国内生産をないがしろにしたツケ>
 消費者がいくら節約の工夫をしても、食品加工業者が必死でコストの崩壊に努めても克服できるものはない。根本的解決を図るためには、できるだけ国内での原料調達に切り替え、円安の直接・間接的影響を低減させる以外に術はない。
 私は、何10年も前から、食料安全保障の重要性を指摘してきたが、農業界以外に耳を傾ける人がほとんどいなかった。だからオイルショックと同じく、食料危機でも訪れないかぎり、安ければ何でもかまわず外国から輸入すればよいという安易な体質は直らないものと諦めていた。そして日本のためには、本当に飢えて困るほどの事態に陥る前に、少し困った上で方向転換ができたらいいと思っていた。つまり、残念ながら1973年の大豆ショックなり、1993年のタイ米の輸入といった、ショックが少々長続きし、これは危険だと気付いてほしいと願っていた。しかし、喉元過ぎれば熱さ忘れるで、今に至ってしまった。

<1年から続く食品値上げの悪連鎖>
 もっと先にならないと定かな統計はわからないが、帝国データバンクによると、この10月の食品の値上げは6699品目予定されているという(9月末発表時点)。2万品目のうちの約3割にあたる。
 秋の食品価格の値上げが家計への更なる圧朴が懸念されているが、コロナ禍の中既に21年からずっと値上げ傾向は続いている。諸々の値上げの中で最も著しいのは食用油である。理由は上述のとおり、自給率が小麦(15%)と比べてより低いからである。(大豆6%、ナタネ0.2%、油脂3%)
 日清オイリオグループ、J - オイルミルズ、昭和産業の食用油大手3社は、7月分から6回目の値上げをしているが、今回の1㎏あたり60円の値上げは過去最大である。総務省の小売物価統計では、21年6月 292円/1㎏ であったのが、1年後の22年6月には402円と38%も上昇している。このため、小麦を原材料とするパン類、麺類も値上がりしている。しかし、必死で国内生産を維持してきた米関係は値上がりすることはなく、生産現場では生育資材の高騰でコストが上昇しているにもかかわらず、農家の手取りが下がるという悲惨な状況となっている。

<悪い要因が重層的に重なる>
 21年北米の干ばつにより大豆・ナタネがもともと不足、ロシア・ウクライナ(ナタネの第3位の輸出国)情勢悪化により、他の油脂からパーム油へのシフトが生じ、インドネシアが輸出制限といった諸々の要因が重なった上に、円安ドル高が大幅に進展した。
 国民の生活にとって、不可欠の油脂類をほとんど国内で生産せず、食料自給率が38%に下がるのを放置してきたツケが一挙に回ってきたのである。そして、このことは他の輸入に頼るものすべてにあてはまる。
 イギリスでは食用油が3倍にも高騰したため、伝統的なフィッシュアンドチップスの店頭価格が10%上げられた。その影響から1万5千店舗の3分の1ほどが閉店をよぎなくされるかもしれないという。インドネシアではパーム油の輸出規制をしたにもかかわらず、前年比2倍にまで値が上がり、デモまで起きている。

<10月値上げラッシュはとどまることなし>
 毎年4月と10月に改訂される政府の小麦の売り渡し価格は、4月に17.3%上げられた。今回急激な円安のため再び上げなければならないはずが、岸田政権の意向で据え置かれた。このためマークアップと呼ばれる政府の収入が減り、農政推進の妨げにもなってくる。

<医療、保険も追い打ち>
 この他に医療関係では、75歳以上の医療費窓口負担が一定以上の所得のあるものは、1割から2割に引き上げられる。大病院の初診時に紹介状がない場合は、特別料金が5000円から7000円以上に引き上げられる。
 雇用保険料も負担率が労使ともに0.2ポイントずつ上がり、一般事業の場合、従事者は0.5%事業主が0.85%になる。子育て支援では、一部の高所得者世帯は月額5000円の特別給付金を受け取れなくなる。これらがコロナ禍の家計を更に圧迫する。

<賃金は少しも上がらず>
 一方問題の賃金はここ20~30年ほとんど上がっていない。異次元的金融緩和で企業に阿ってきたアベノミクスの中で、政府が企業に賃上げを要請したが、ほとんど効果はなかった。これでは、GDPの6割を占める個人消費が伸びるはずはなく、景気もよくなるはずもない。ついこの間までは、円高と労賃のアップにより海外投資や工場の海外移転が進んでいたが様相が一変してしまった。
 今の20代から30代の若者は我々団塊の世代のように成長を経験していない。政府なり経済政策に不満が生じてもいいはずが「いい時」を知らないため、こんなものかと諦めて政府与党を支持するという変な状況になっている。怒りや改革の意識がなかったら世の中は変わっていかない。つまり活力の欠ける社会になってしまっているのだ。

<円安に歯止めが先決>
 諸物価値上がりの一因となっている円安傾向は、政府が国債の利払いを恐れて低金利政策を続けるために一向に収まる気配がない。アメリカもヨーロッパも日本よりずっと酷いインフレが発生していることから、金利を徐々に上げている。低金利の日本との金利差は開くばかりであり、円を売り高金利のドル・ユーロを買う動きが続くのは当然で、海外のインフレが収まるまで円安は止まらない。
 日本は、賃上げを伴わないいわゆる「悪いインフレ」に向けて突き進んでいる。政府の無策を何とかしないとならない。
 また、今回の食品の値上げを機に、例えば国内でのナタネ生産を復活させるなど、できるこことから早急に手を打っていく必要がある。この点については、別に報告したい。

投稿者: しのはら孝

日時: 2022年10月15日 13:18