<防衛問題シリーズ①>原発にとってミサイル攻撃と地震は同じで防ぎようがない - 防衛費を2倍に増やす前に国内の核(原発)をなくす - 22.10.29
<防衛費増に国民が賛成する危険な兆候>
北朝鮮が狂ったようにミサイル発射実験を繰り返している。核実験もするかもしれないと報じられている。こうした危険な状況に対し、我が国では安倍元首相の置き土産ともいうべき「敵基地攻撃能力」(改め「反撃能力」)の必要性が声高に叫ばれ、防衛費を5兆円から10兆円強に倍増すべしという勇ましい議論が始まっている。そこにロシアのウクライナ侵攻が拍車をかけた。政府とそれに乗っかる一部のマスコミの宣伝の成果か、国民も防衛費の増額を支持する者が5割を超えている(直近のNHKの世論調査では防衛費増強に賛成が55.4%、反対が29.2%となっている)。危険な兆候である。
<原発事故を忘れていない日本国民>
国民は北朝鮮が東京や大阪、名古屋といった大都市を攻撃してくることを恐れる以上に、原発を標的にされることを恐れているに違いない。それはロシアがザポロジエ原発への攻撃をチラつかせているからである。もしも欧州最大の原発が攻撃されて、チェルノブイリや福島第一原発と同じ状況になったら、ヨーロッパはおろか北半球全体が放射能に汚染される。
1986年に起きたチェルノブイリ原発事故から36年も経ったのに30km圏内にはまだ人が住めないままである。原発事故の悪影響はそれだけ大きいのだ。人為的に核爆発を起こして発電している施設が、制御を失ったら大きな核爆発を繰り返すに等しい状況になるからだ。
事故発生25年後の2011年に訪れた時にも、鉄条網が張りめぐらされ入り口で厳重にチェックをされてからでないと入れなかった。それでも高齢者が最後は自分の生まれ育った所で死にたいと禁を破って帰り始めていた(サマショールと呼ばれる)。困ったウクライナ政府は仕方なしに黙認を決め込んだが、放射線に対して感受性の高い18才未満の圏内立ち入りは絶対に認めていなかった。日本では次々と帰還困難区域が解除されているが、幼子を抱えた若い夫婦は帰ろうとしない。政府の対応は真逆だが、住民の対応は似通っている。
<原発は空からの攻撃には無防備だが、地下からの不意打ち(地震)には地震地帯に原発を造らないことで妨げる>
ミサイル攻撃から守ることができる原発は、地下式原発以外にない。ロシアのウクライナ侵攻のような原発を持つ先進国同士の戦争など想定していなかったため、どこの国も原発に向けられる空からの攻撃への防御はしてきていない。そして、今回初めて戦争が原発に忍び寄る危険を知らされたのである。しかし、IT技術などの発展によりミサイルはピンポイントで狙いに的中することから防ぎようがない。その意味では、地震もミサイル攻撃と同じく防ぎようがない。
それでもまだ地震に対しては、活断層の上に原発を建てないこともできる。究極の解決方法は地震の発生する場所には原発を造らないことだ。
アメリカには原発が約100基あるが、ロッキー山脈の西側、つまり環太平洋火山帯(Ring of Fire)のカルフォルニア州には2基しか存在せず、他は地震が皆無に近いロッキー山脈の東側にある。
<地震の巣窟の日本に原発は存在できず>
2014年9月、私は「高レベル放射性廃棄物等の最終処分に関する議員連盟」の事務局長として、世界の原発廃棄物処理施設を視察した。その一環で地球科学者に地震と原発の関係を聞くため、アメリカのカルフォルニア大学ローレンスバークレー研究所を訪問した。その地球科学者のコメントは明快だった。「地震の巣窟の日本に原発があること自体が信じ難い。2011年の事故は起きるべくして起こった。これからも地震が起きたら同じことになる。津波の前に原子炉格納容器が崩壊する恐れがある」というものだった。
そして、若い研究者の案内で我々は、近くの公園の中にあるサンフランシスコ大地震(1906年、マグニチュード7.8、サンアンドレアス断層のズレ、約3000人が犠牲)跡地まで連れていかれた。そこで見せつけられたのは、牧場の白い柵が6mずれて残っている現場だった。つまり揺れの激しい地震にはどんな強固な建物でも無傷ではいられないことを我々3人に教えんとしたのである。日本には原発など造るな、早く全てを止めて廃炉にしろというのが結論だった。
<原発は仮想敵国の核兵器が設置されたのと同じ>
原発はいってみれば、仮想敵国が日本国内に配置した核兵器といってもよい。核兵器のボタンを押す代わりに、「日本の核兵器」すなわち原発を攻撃すれば一巻の終わりなのだ。日本に存在する原発は、仮想敵国からみれば、親切にも(?)日本が設置してくれた核ミサイル弾頭に等しいのだ。もし原発が破壊されれば数10年、いや100年以上も人が住めなくなる可能性が高い。チェルノブイリのいまだに住めない30km圏内が被害の継続性を示している。
<日本には原発を標的にしたミサイルを撃ち落とす能力なし>
そうした不安に乗じる形で、ミサイル攻撃から日本を守るために、その敵のミサイルを撃ち落とさなければならず、更にはそうした基地を攻撃しなければならない(反撃能力)という図式が成り立つ。そこで今後5年間で40~50兆円の防衛費が必要という法外な話がもたらされている。
確かに北朝鮮がアメリカを攻撃するとなると迎撃ミサイルで途中の太平洋上空で撃ち落とすことも可能である。しかし、日本のような至近距離ではミサイルを撃ち落とすことは難しい。あっという間に到着してしまうからだ。今回も、Jアラートが久方ぶりに鳴り響いたが、誤作動もあり、とても日本人の生命を守れるしろものではない。
<日本を原発攻撃から守る。最良の手段は原発を持たないこと>
日本を戦争による破壊から救う唯一の手段は原発を止めることである。こんな安上がりな防衛はない。原発を持って弱さをさらけ出したままでは、日本国の防衛ができない。
それを「このままでは電力料金が上がりっぱなしで日本経済が持たない」「冬の電力需給がひっ迫して混乱に陥るから」などの論法で、原発をできるだけ多く再稼働させ、60年の期限もとっぱらって発電し続ける、といった愚行が始まらんとしている。この暴走は止めなければならない。なによりも日本の美しい防衛のためである。
本当に日本のためを思う、右派なりタカ派なら、敵基地攻撃反撃能力を声高に叫ぶ(前にとはいわないが)と同時に標的の原発の廃止を訴えるのが筋である。つまり稼働する原発を保有することは、何よりも日本の防衛力を弱めているのである。
原発を持ちつつ戦争を遂行できないということが、ロシアのウクライナ侵攻により明らかになった。それを防衛の専門家(?)が、なぜこんな単純なことに気付かないのだろうか。
(左側の白柵は断裂し、右側後方約6m先から続く)