2022.11.09

農林水産

【神宮外苑シリーズ①】神宮外苑の樹木伐採は先進国では考えられず-歴史的景観や慣れ親しんだ景観を残すのは国家の責任-22.11.09

<パリの様式美が世界を魅了>
 世界中で1番多くの観光客(2018年 8,940万人)が訪れる都市はパリである。自由な雰囲気が世界を魅了する。実はパリの街並みの美しさは厳重な規制で保たれている。
 日本のように看板があふれかえってなどいない。街路樹は同じ木が植えられている。19世紀のパリの大改造時に建物の階数は、美観・日照・防災等の観点から道路の広さに応じて、圧迫感がないように広い所は8階建て、狭い所は3階建てとか決められている。

<昔の景色がそのまま残る>
 エッフェル塔に行き、シャイヨー宮からパリを一望すると、アンヴァリッド(ナポレオンのお墓がある)以外大体同じ高さであり、右側のほうに旧JALホテルがチラっと見えているだけである。古い石の建物は、昔のままに変わることなく利用されているのだ。
 つまり景観は、100年前や200年前と同じに保たれている。これは郊外に行っても同じで、例えば多くの画家が住んでいたバルビゾン村に行っても、何百年前に描かれた景色がそのまま残り、ご丁寧にも有名画家の風景画レプリカが置いてある。その画家がその場所でスケッチして描いたことがわかり、一時画家になった気分になれる。畑の作物も、木も建物もそのままだからだ。フランスでは都市部と農地とは厳格に線引きされており、日本のようなスプロール現象による乱開発はない。

<通りに面した側はいじらせず、内装を変えることしか許されず>
 今から約四半世紀前私はOECD代表部に勤務していた。凱旋門から出ている12本の1つオッシュ通り(Avenue Hoche)に面した、我が日本大使館の建物(駐仏大使館とOECD代表部が半々に分け合っていた)の改築工事が行われていたが、表通りに面した部分は変えてはならないという規制があり、古い建物を壊すことなく内部だけいじって、天井を高くしエレベーターを新設し・・と何倍も時間と金をかけざるを得ないのだ。それだけ古いものを大切にし、昔のままに保つことに細心の注意を払っている。古い建物は跡形もなくぶち壊し、近隣との調和を何も考えずに新しく建てる東京と違うのだ。

<樹木も植物もほうっておいても育つ恵まれた日本>
 日本は、ほうっておいたら至る所で草がぼうぼうになる恵まれた温帯の国である。街路樹ですら大した手を加えなくともスクスク育っている。年間降雨量が1800mmの北緯30~40度のなせる業である。それに対し、降雨量600mm北緯50度近いパリでは植物も木々もそうはいかない。街路樹の根元には筒が立てられた穴があり、給水車が次々に水を流し込むのが夏の光景である。そうしたところで愛されて育ってきた木が1000本も一気に伐採されることなどありえない。住民が許すはずもないが、その前にパリ市当局がそんな無粋な計画は立てない。
 それを東京の神宮外苑では平然と743本の木を切り倒そうとしているのだ。(11月8日三井不動産はホームページで多少の改善した案を示した)

<マルローが残した世界的景観を守るという遺産>
 ヨーロッパ大陸は岩大陸である。パリは17世紀ぐらいまでは木の家ばかりだったが、ロンドンにも大火事があり、それ以降木造建築は禁止された。それを機会に石の家に徐々に変わっていった。何のことはない、近くの石を切り出せば石材が調達できたのだ。つまり、家も地産地消なのだ。その後1960年代マルロー法で歴史的環境を保全することになった。更に眺望をさえぎらないというフュゾー規制が導入され、高層ビルなど見当たらなくなった。
 世界中の大都市に摩天楼ができる中、パリにも1972年 高さ210m 59階建てのモンパルナス・タワーが建てられたが、パリ市民の不評をかい、また規制が強化された。規制改革推進会議、国家戦略特区諮問会議でひたすら経済成長のみを重視する日本とは大違いで、今も日本と真反対の厳しい規制がなされているからだ。

<緑のジャンヌダルク、イダルゴ・パリ市長の緑化計画>
 ところが、パリは残念ながら緑が著しく欠ける都市である。西側のブローニュの森、東側はヴァンセンヌの森があり、パリの左右の肺と称されるが、ペリフェリック(環状自動車専用道)内には一戸建ての家など存在しない。従って日本のような小さな中庭もない。そこで緑は郊外に求めるしかない。そのせいばかりではないが、仕事はパリのオフィス、週末は田舎の緑溢れる家ですごし一生を終えるという二地域居住が進んでいる。ところが、最近石の街パリも緑の街へと変身しようとしている。
 イダルゴ・パリ市長は、2030年までに街の半分を緑地にする計画を打ち立てた。リヨン駅等4つの主要なランドマークのそばには「都市の森」を造り、シャンゼリゼ通りを①4車線から2車線にし②歩行者と緑のエリアを作る③空気の質を向上させる「木のトンネル」を整備する、そしてパリ全体で17万本の木を植え2030年までに市の50%を植樹地で覆うというのだ。

<いずこの都市も樹木を保護・保全している>
 世界の大きな課題が地球温暖化対策、22世紀に気温が2度Cも上がっては大変と世界が共通の目標に向けて動き出しており、世を挙げてSDGsを叫んでいる。東京でも緑の保全に取り組み、私の住む杉並区でも「みどりの条例」もあり、保護樹木林だけでなく民間所有地にも保護樹木が指定され、土地所有者に1本3,000円~8,000円の保全・保護のための補助金が毎年出ている。
 小池都知事は環境重視の姿勢をアピールしてなのか、よく緑色の服を着ている。そして今回もエジプトのCOP27に太陽光パネルの義務化等を紹介するために出席するというが、自分の服だけでなく東京を緑の木々で覆うことも考えてほしいものだ。イダルゴ市長同様にやろうと思えば何でもできるのに、神宮の緑がなくなることには何も手を打とうとしない。
 パリと東京、彼我の正反対の姿勢に嘆息がでるばかりである。片や緑のある美しい大通り、片や1000本の樹木を切り倒し、無粋な高層ビルを建てるというのだ。「神宮の杜」を「高層ビルの森」にでもしようというのか。名物のイチョウ並木も国民の献木でできた神宮外苑も危機に瀕している。高橋治之他の電通関係者が暗躍した東京オリンピック疑惑が、統一教会の陰で報道されている。もしも、国立競技場の建て替え等に始まり、神宮外苑の再開発を巡り政・官と建築業界のいかがわしいトライアングルがあるとしたら、それこそ許しがたい。

<オランダ(ハーグ)では大使館や大使公邸の木も切らせない>
 1990年、コメの輸入という難問を突き付けられたウルグアイラウンドのさ中、私はハーグのオランダ大使公邸にいた。大使が交渉で疲れ切った審議官をねぎらうべく夕食に招待してくれた。2人は若かりし頃同じ大使館に勤務した仲で話がはずむ。隣の私は夕食後電報を書かなければならず、気が気でない中、大使夫人とばかり話すことになった。
 その中で、大使夫人がオランダ(ないしハーグ)の不満をぶちまけた。古い大使館を建て替えようとしたら、公邸内にある大きな樹木を切ってはならないと注文をつけてきたというのだ。大使夫人は外交官は治外法権なのにと怒ったが、それは逮捕されたりしないというだけで、環境や交通のルールは守るのが当然だと、わざと突っかかったのを覚えている。私は、そこまでして樹木を守ろうとするオランダの姿勢に感心した。
 石炭火力にしがみつく日本はCOPではいつも嘲笑の的だが、緑の保全こそ一周遅れどころか数周遅れである。東京都がやらないなら、国が介入して規制して神宮外苑の樹木を守らなければならない。

投稿者: 管理者

日時: 2022年11月 9日 16:09