2022.12.15

政治

<旧統一教会シリーズ➆> 異例の土曜国会で与野党の顔の立つ妥協が - 今後の抑止には役立っても実効性は乏しく、今後の検証が不可欠 - 22.12.15

<前代未聞の切羽詰まった審議は、参議院に対して失礼>
 臨時国会の最終日、12月10日(土)重要な法案が突貫工事で審議され、成立したのは前代未聞である。本当は24時を過ぎていたのに、時計を止めて会期内成立とした例もあるとか聞くが、それと同等に次ぐ見苦しい結果である。
 30年間も政治も世論もほったらかしにしておいたものを数ヶ月で決められるかという批判には、急ぐために仕方ないという反論も成り立つ。しかし、何よりも参議院に対して失礼である。最終日は閉会中審査等の手続きをして終えるのが慣例になっているのに、夜まで審議し、衆参両院合わせて僅か5日で成立してしまった。5野党とも世論を意識した与野党の駆け引きが優先され、中身の吟味は二の次になってしまった。

<最初から及び腰の自民党>
 今回の法制定に向けて常に一歩先に出て流れを作ったのは我が立憲民主党である。派閥の領袖等の大物ばかりしか関与しなかったリクルート疑惑とは異なり、自民党は国会議員のみならず市町村議会議員までも深く関与していたのが明白だった。それが、7月中旬「やや日刊カルト新聞」のSNSで明らかになった。ところが、茂木自民党幹事長は組織的には関与していないことを理由に各人が説明すべし、と全容解明に後ろ向きだった。しかも、11月下旬の臨時国会最終盤になっても、今国会中の法案成立は無理だと及び腰だった。
 立憲民主党はSNSの私的にも党が責任を持って調査、その後全議員と旧統一教会の関係性を調査、速やかに(8月23日)、公表した。
 7月25日旧統一教会被害対策本部(西村智奈美本部長)を立ち上げ、有田芳生元参議院議員、被害者、霊感商法弁護団の弁護士等をゲストに実情把握し、関係各省へのヒアリングも精力的に行った。会合は20回余に及んだ。さらに国対ヒアリング(山井和則国対代理主催)も30回以上開催した。私は党の幹事長代行としてとっかかりを作った責任から、双方の会合にできるだけ参加した。小川さゆりさん(仮名)をはじめとする被害者の訴えは信じられないようなことばかりだった。話を聞いた被害者の数も20人弱になった。
 こうした検討を踏まえて10月17日には立憲民主党、日本維新の会、社会民主党の三党で悪質献金被害救済法案を衆議院に提出した。これを受け、10月21日から4党与野党協議会(自公立維)をスタートさせた。4党協議会は9回に及び、その後、幹事長会談も交え、与野党で精力的に法案協議を進めた。政府が法案を提出する前に与党が協議に応じたのだ。

<1ヶ月半遅れの付け焼き刃の内閣法案提出>
 何も準備してこなかった岸田政権は、1998年金融再生関連法で小渕内閣が民主党の野党案をほぼ丸呑みして成立させたのと同じような展開がベストであった。
 しかし、追い詰められた岸田政権にその余裕はない。それでは異例の妥協をしてきたのにすべてが野党の手柄になってしまうからである。政府与党は12月1日にやっと救済新法「法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律」を提出した。野党3党の法案提出に遅れること1ヶ月半という体たらくである。しかも、審議に入る前に与党が修正案を示す異例の展開になった。

<足して二で割る幻の篠原対応案>
 さて、立憲民主党はどうするか。
 A立法を急がせたのであり、不十分ながらも修正要求を出して、より我が党案(といってもまだまだ不十分で完璧には程遠い)に近づける努力はするが、最後には賛成する。Bこんな鈍らな法案では被害者を守れないと突き返して反対するか選択を迫られることになった。ここまでやってきたのに更に政府自民党が妥協してくるとは予想しがたく、さりとて真っ向から反対はしにくい。
 私のように生産者の方を向くと同時に消費者の方も向いて、間を採らなければならない農林水産行政を必死にやってきた者には、すぐ「足して二で割る」解決策が思い浮かぶ。具体的に言うと基本はBだが、法案の成立自体は歓迎する。しかし、① 1番問題のマインド・コントロールの規定と禁止が盛り込まれず。② 取消の要件も困惑とか必要不可欠とわかりにくく被害者からすると立証が難しい。③ 救済範囲も生活困窮者と限定される。④ 家族の訴えでは我々は特例補助制度を提案したが債権者代位権で済ましている。⑤ 何よりも子供が訴えることなどまずできない等、問題点が多々あり、法案そのものには賛成できないと宣言して反対する。そして、採決の前後の談話できちんとその理由を述べることだ。
 何よりも宗教2世被害者も子供が救われないと訴え、全国悪霊商法対策弁護士連絡会もほとんど実効性がないと断じており、その気持ちを最大限酌む必要があるからだ。そのかわり、施行後本当に実効性があるのかを検証し、2年更なる規制強化を断行しなければならない。感心したことに河野消費者担当大臣は、検討作業はすぐに始めると答弁している。
 最後は、マインド・コントロール絡みの3条に配慮義務が入り、更に勧告・報告・公表が追加され、加えて「十分に」が入ることにより、我が党も賛成することになった。まさに双方顔を立てるという政治的妥協の産物である。
 
<予想外だった岸田内閣改造>
 私は、7月中旬に大体の流れを予測し、そのために玉込めをした。①まず、何かと安倍政権寄りだったマスメディアもさすが旧統一教会問題では与党を攻撃してくれると踏んだ。②だから、我が党が先頭に立って調査して見本を示せば、自民党も全議員調査をせざるを得なくなる。③末端まで深く関与しているため、自民党の体力を相当弱めることができる。④法案化は政府が渋っても我が党が攻勢をかければ世論も味方するので、政府・与党も重い腰を上げざるを得なくなり、この臨時国会で法案が通る。そして大体私の思惑通りに進んだ。
 たった一つの予想外は、岸田首相の内閣改造である。
 マスコミは、支持率が下がっているので焦って被害者対策を始めた、と通俗的解釈しかしていないが、私からみると岸田首相こそ自民党総裁として本件を重点問題と捉え、最初から積極的に対応していこうとしていた。

<思惑通り進まず苦境に陥る>
 ところが、旧統一教会に最も多くが関わる安倍派(清和会)と政権与党の公明党と2つの壁があり、思うようにできなかったのではないか。それに加え、党で内閣を支えるべき茂木幹事長が最初から乗り気でなかったので、自らの判断でできる内閣改造で思い切った「旧統一教会切り」をして、斬新さを見せつけようと動き出したとみられる。しかし、官邸には身体検査能力はそれ程なく、政務三役中32人(4割)も何らかの関係があり、更に山際大志郎大臣を残してしまったため、虻蜂取らずに終わってしまった。
 その後も、解散命令は刑事事件で敗訴しないとならないという答弁を、1日で重大な不法行為により民事裁判で敗訴しても解散命令はできると変えた。そして、ハラハラする事務方を尻目に解決に向けた、或いは救済に向けた前向きな答弁を繰り返したのは、トップとして我が身(党・政府)の危険をひしひしと感じていたからに違いない。国民の7割以上が支持する旧統一教会の解散命令がすぐに出せない中、この法案を成立させなければ政権が持たないとわかっていたのだ。

<補佐役茂木幹事長はなぜ動かなかったのか>
 我が党内で20数人に個別に当たって関与を取りまとめた際の経験からの推測でしかないが、不祥事を党で取りまとめてその結果を発表するとなると同僚議員からの不評を買うことになる。茂木幹事長のように次期総裁を狙う者としては気が進まず、どうしても後ろ向きにならざるを得ない作業であったのだろう。結果として自民党の対応の大幅な遅れを生みだしてしまったが、党内の政権運営とその後の体制がからみかけ引きがあったのではなかろうかと考える。
 つまり、本件は、立憲と維新の共闘体制が絡んだ、手柄の取り合いやそれに付け入り野党分断を図る自民党の思惑、更には、自民党内の鍔迫り合いに相当動かされた。少なくとも将来の抑止効果はあるという点で、一歩前進だが、救済の仕組みが整ったとはいえず、本文は今後のなり行きをみないとならない。寂しい高齢者に高額寄付をさせたり、宗教2世を再び造ることを止めたりする法律がすぐに必要である。

投稿者: しのはら孝

日時: 2022年12月15日 15:18