2023.03.01

【神宮外苑シリーズ③】秩父宮ラグビー場と神宮球場はスポーツ遺産として改修利用が世界の常識 -手垢にまみれた神宮外苑再開発は中止すべし- 23.3.1

<京都・奈良の神社仏閣を守り抜いた日本人の感性>
 私には、神宮外苑のイチョウの大木を1000本も伐採して新しいラグビー場や緑地を造るという発想がどうしても理解できない。なぜなら、我々日本人は、京都・奈良の古いお寺や神社を守り抜いてきている。だから広島・長崎に原爆を落としたアメリカさえも、日本人のそうした感性に敬意を表して京都・奈良には爆撃をしていない。
 現代の日本人も、文化遺産・自然遺産等の世界遺産の登録・保存には熱心であり、ユネスコのお墨付きをもらうことに一喜一憂している。そこに農業遺産、近代化産業遺産が加わり、古いものを残そうという気運が段々育ちつつあり、私はいい傾向だと喜んでいた。
 今ロシアはウクライナを徹底的に叩きのめすため、遂には文化や歴史を象徴する施設の攻撃までしだしている。ウクライナ人の心にダメージを与えるのに一番いい手法だからだ。それをこの平和な日本で、東京の象徴の一つになりつつある神宮外苑を自ら壊して変えてしまおうとしているのだ。神宮外苑再開発により巨木を切り倒し、代わりに高層ビルを建てることは愚の骨頂であると断言できる。

<スポーツモニュメントも改修し利用し続けるのが世界の常識>
 国際的にはズレ切ったこうした動きに驚いたのか、日本の文化や自然を愛する外国人が声を挙げてくれている。東京新聞(23年1月26日)によると、日本の野球についての著書(「菊とバット」)のある作家ホワイティング等が記者会見し、「緑に囲まれている球場がビルに囲まれる。野球ファンのためではなくビジネスファンのための開発。」と指摘、反対のオンライン署名「Change.org」を始めている。また、キーナート初代楽天GMは、米大リーグの球場の建て替え計画が市民の大反対で撤回されたことを紹介し、神宮球場も同じモニュメントと主張している。『人新世の「資本論」』で人気の斎藤幸平東大准教授も賛同者の一人である。
 日本でも高校球児の憧れの地、甲子園球場が跡形もなく改築されるとしたら、かつての野球少年たちは大反対するだろう。昔の面影を残しつつ、改修して使い続けるのが人情であり、それは世界の常識である。

<国も緑を守りスポーツの聖地を守る責任がある>
 神宮球場は1926年から使われている。大学野球の聖地でもある。数々の名勝負が繰り広げられてきており、選手のみならず観客の思い出もいっぱい詰まった場所である。そして今はヤクルトの本拠地としても使われている。
 秩父宮ラグビー場でプレーし、日本代表になった平尾剛神戸新和女子大学教授は、集客人数が2万5000人から1万5000人に減ることにも異議を唱えている。階下のトラックもなく、ピッチと観客席の間が近く臨場感がすごかったのにそれもなくなってしまうという。西の花園と並ぶ聖地は、ラグビー以外使われておらず未使用だという難癖をつけられ公園指定の解除の理由にされている。新球場はライブ、スケートのアイスショー、バスケット等もできる多目的スタジアムにして効率的活用を図るというのだ。それを老朽化したから建て替えるというもっともらしい説明だけで、こうした改悪の事実は大半の人には知らされないでいる。目的は一つ、安上がりのオフィスビルを建てるためにすべてが犠牲にされんとしているのだ。
 ずっと続いている効率一辺倒主義・経済合理主義がスポーツの世界でも大手を振って、今まさにそこで全身全霊を捧げた選手たちや懸命に応援したスポーツファン達の思い出まで消し去らんとしている。こうした事態に対し、船田元議員を中心とし私も参加して立ち上げた超党派議員連盟「神宮外苑の自然と歴史・文化を守る議員連盟」(27名)は、3/3には、緑を守るために活動してくれている3人のアメリカ人と平尾教授を迎えて緊急会合を予定している。国会議員としてこの愚行を看過できないからである。

<東京オリンピックが神宮外苑再開発の口実に利用されている>
 月刊日本と東京新聞は早くからこの問題を取り上げて警鐘を鳴らしてきている。
 東京オリンピックが終わってからいろいろな疑惑が明らかになりつつある。大体電通が絡んでいるようだ。旧統一教会と自民党の抜き差しならならぬ関係がやっと白日の下に晒されつつあるが、電通との癒着も相当なものである。電通は150人も組織委員会に送り込んでいたという。更に東京オリンピックは、都心に残った最後の広い一等地・神宮外苑再開発の口実だった可能性が強まりつつある。
 こうしたことが東京都の都市整備局の公文書の情報公開で明らかにされ、更に山口敏夫元労働大臣が「森君は東京五輪を外苑再開発に利用した」(月刊日本、22年11月)という文を寄せている。

<スポーツ振興センター(JSC)が乱開発に歯止めをかけるべし>
 最も糾弾されるべきは、国の独立行政法人スポーツ振興センターである。三井不動産と伊藤忠商事に引っぱられて、スポーツの聖地をずたずたにする神経が全く理解できない。二つの民間企業は、公益でなく利益を追求して当然である。しかし、JSCも明治神宮も公益法人であり、JSCはスポーツ界の代表として、神宮外苑の乱開発にストップをかけスポーツの広場を守るのが本筋である。それを電通に振り回され一緒になって暴走しているとは情けない限りである。もしもJSCが電通に利用され一連の東京オリンピックの汚職なり、スポーツ利権の温床となっているとしたら、これもまた許しがたいことである。
 スポーツはビジネスとは違うのだ。ビジネスはビジネス界でやればいい。球場やラグビー場の向こうに青々とした空が消え、オフィスビルがニョキッと建っているのは観客の立場からしても興ざめである。

<明治神宮・神宮外苑は日本の伝統文化の象徴>
 明治天皇が神宮外苑開発などという邪なことを考えたことに対して、怒られお灸を据えられたのか、東京オリンピックはコロナに始まり、最初からケチのつき通しである。
時代の流れとともに日本中の神社や祭りがすたれ、神社やお寺がおしなべて経営難に陥っており、明治神宮も周辺を開発しその収入をあてにしないとならなくなっているといわれている。もしそれが事実なら、100年前と同じくそれこそ都民がそして日本人が全員で支えてしかるべきである。
 日本の自然は偉大であり、全くの人工林の明治神宮の森は、今や自然の森になっている。それは、神社の杜としてふさわしく永遠に続くものとして、当初からカシ、シイ、クスノキ等この地域に自生していた常緑広葉樹が植えられたからでもある。先人の知恵と奉仕活動に感謝せずにはいられない。それを、100年後の我々の世代が食い物にし、壊そうとしているのだ。明治神宮も統一教会で新聞紙上をにぎわす宗教法人の一つである。こうした経緯を国民に対してきちんと説明する責任がある。そして、国民に正しく訴えれば、三井不動産や伊藤忠商事の餌などにされずに、ずっと「神宮の杜」を維持できるのだ。なぜ正攻法でいかずに邪道に走るのか不思議でならない。

<なぜ動かない日本の保守>
 明治神宮も人工的に作り上げた神宮の杜も神宮外苑も、国が責任を持って守る責務がある。なぜなら、日本のアイデンティティーの1つだからだ。初詣に訪れる人数も300万人をゆうに超え、日本一であることがこれを証明している。それを20世紀の惰性でビルを建てることを看過してはならない。本来、こうした声を真っ先に挙げないとならないのは、保守層でしかるべきなのに、さっぱりそうした声が聞こえてこない。国を守るために防衛費増、反撃能力と言いながら、足下の美しい歴史的景観や自然も守れないのでは、その主張も空虚に響くだけである。ロシアは最後の手段としてウクライナの歴史・文化の破壊に乗り出した。我々日本人は、平和に感謝しつつ、日本の伝統文化を守るのが義務である。

投稿者: しのはら孝

日時: 2023年3月 1日 10:49