2023.03.18

日本の国会審議は形式だらけ --安保関連3文書は閣議決定先行の一方で、 林外相はG7出席をやめて予算委優先--23.3.13

 国会は国権の最高機関と憲法(第41条)で定められている。日本のいろいろな仕組みは一応形式的にはそのようになっているが、圧倒的に行政が勝手に決めていることが多い。
 その典型例が年末の安保関連3文書の閣議決定である。臨時国会が終わって、通常国会が1月中旬に始まるまでの間、年末の間隙を縫って閣議決定している。そして岸田首相は、「戦後の安保政策の大転換」と大見得を切っている。国会での議論は全くなく、国民にも当然説明なしである。


<岸田首相のバイデン大統領への43兆円のお土産>
 年明け、G7議長国ということで、メンバー国を表敬訪問して歩いた。ヨーロッパを駆け足で回り最後はアメリカにも赴いた。総理秘書官として随行した息子の翔太郎がお土産買いばかりをしていた上に、観光三昧だったと批判されている。しかし、秘書官のお土産よりも岸田首相がバイデン大統領に持っていったお土産、すなわち安保関連3文書と、その裏付けとなる2027年までの5年間で43兆円の防衛費増額の土産の方がずっと問題である。  
 日本の防衛産業は攻撃するような武器を作らないことになっているし、日本が自前で調達できる武器は少ない。従ってアメリカから買う他ない。慢性的貿易赤字国のアメリカにとって、唯二の稼ぎどころは軍事関連と医療関連である。だから岸田首相はバイデン大統領から肩を組まれ、日米関係がこんなに良好だったことはないと持ち上げられ、悦に入って帰国している。

<林外相G20外相会合欠席はありえず>
 一方、林芳正外相は、インドのG20外相会合を欠席し顰蹙を買った。全閣僚の出席が義務付けられている参議院予算委員会の基本的質疑出席のためである。制度的には三権分立のルールからして国会の権限が強くなっているからだ。ところが、2日間の予算委で、質疑の応答の時間はたった1分半ぐらいだったことから批判が沸騰した。例によって野党が国会重視で行かせなかったという批判を受けているが、外務省からも与党自民党からも国会に対し会合に行かせてほしいという申し出すらなかったという。得意の責任のなすり付け合いである。
 それにしても政府と与党国対の調整不足は否めない。林外相がたった1分半の質疑応答の時間のために、G20の外相会合に出席できないなどというのは他の国からすれば異様である。
 このように日本の国会審議は、形式にとらわれすぎであり、実質審議はおざなりになっている。

<本当の議論ができたOECDが懐かしい>
 私はOECD代表部に1991年から1994年まで3年間いたが、大体1週間単位で農業委員会とか、貿易委員会の各委員会が開かれる。
 世界中からせっかく旅費を使ってパリにきているので、1日午前3時間午後3時間とみっちり6時間議論することになる。それが大体3日続き、長いのになると1週間ぶっ続けでやることもある。同じ国際機関でもWTOのように関税を引き下げるとか具体的なことではなく、

 農政でいったら所得補償や環境はいかにあるべきかといった抽象的政策論議をする場である。大体日本はそういうのが苦手だから、詳細な訓令が来ず、代表部の担当参事官(課長クラス)にほとんど任されることになる。
 農林水産省の場合、私より高官が来た事は一回位しかなく、私の自由にできた。英語が苦手なため日本人は普通あまり発言しないが、私は下手な英語にもかかわらず平均的な日本代表よりずっと頻繁に発言をしていたと思う。そもそもどうあるべきかというのが中心なので、朝から晩まで議論したら、大体議論が収束し、そこで国際的ルールができあがっていく。

<自由討議が優先される憲法審査会も形式に堕している> 
 3月9日に私も発言した憲法審査会も、かつてはそうでなかったが今や形式的になってしまっている。それぞれの政党が対等に7分間の冒頭の意見を言い、その後登録した人たちだけが5分間ずつ発言できることになっており、大体1時間半で終わる。他の〇〇委員会と違い審査会(・・・)と言われ、個人の名札を立てて発言することになっている。憲法は党利党略で決めるのではなく、各個人の意見で決めるべきもの、つまり党議拘束なしで議論するということで始められたからだ。
 日本の国会審議は、やれ何時間審議した、誰が出席すべきといった国会日程闘争が全面に出る一方、根源的議論が行われていない。TV中継される予算委員会が典型だが、与党議員の不正スキャンダルや失言等を野党が追及する場になってしまっている。これでは議論が煮詰まるはずがなく、政治への関心が低くなっても仕方あるまい。
 
<憲法審査会は時の憲法に関わる問題を議論すべし>
 これでは、OECDの会議のようにクロスディスカッションをやったなどとはとても言えない。だから私は今もしも緊急事態条項が本当に必要なら、緊急事態条項なかんずく国会議員の任期延長といった端っこのことではなく、むしろ本体すなわち首相の権限、財産処分なりを議論すべきだと思う。
 更に、突然降って湧いた攻撃能力が専守防衛なのか、夫婦別姓やLGBTQといった今注目されている憲法関連の問題を取り扱い、集中的に議論すべきではないかと思う。その時は①テーマを決め、②朝から晩まで7時間コース(通常の委員会の最長)、➂各党の時間の振り分けなどなく、名札を立てての自由討議(構成員は他の委員会と同じく議員数による政党別)等のルールの下に遂行すべきではないかと思う。そして、大筋このような意見を申し述べた。

 以下は余談の類である

<発音は悪いが冗談を聞きたいのでシーンとなる篠原発言>
 上司が出張してきた折、同席して議論を聞いていた。その感想を聞くと「篠原が発言する時だけ皆シーンとなって真面目に聞いていた。他の人が発言する時は、すぐに横の人とおしゃべりする人がいたのになぜだ。」と聞かれた。私は一生懸命発言しているだけなので、反応など見る余裕がなかったから気が付かなかった。そこで親しい他国の代表団に聞いたところ、面白い答えが返ってきた。第一に、そこそこの注目すべき意見を言うので聞いておかなければならない。第二に、英語の発音が悪くよく聞いていないとわからない。更に、第三の理由が私の冗談が楽しいからだという。私は、理屈ばかりの議論で疲れるので時たま冗談を入れることにしていた。その冗談を聞きたくて耳をそばだてているのも大勢いたということがわかった。

<韓国のトレーニー(加盟に備えて研修中)との10年後の再会>
 さらにこの延長で10年後、思いがけない再会が待っていた。農林水産研究所長(私の退官直前のポスト)として、ワシントンD.C.に出張したところ、韓国大使館から「篠原が来ているなら一席設けたい」と申し出てきたというのだ。顔に見覚えのある金在水(キムジェス)だった。1990年代前半韓国もOECDに加盟すべく、精鋭を関係の事務局に出向させていた。その彼が10年後には韓国の駐ワシントン大使館に勤務していたのだ。農業委にずっと出て聞いていたけれども、私の冗談をともなう発言を1番楽しく聞いていたという。
 金在水はその後も出世し、朴槿恵政権下で農林大臣を務めた。

投稿者: しのはら孝

日時: 2023年3月18日 15:03