2023.03.05

<防衛問題シリーズ➃> 台湾有事は日米合作のオオカミ少年 ―日本はちょっかいを出さない限り中国が日本を侵攻することなどありえない―23.3.6 (23.1.23脱稿)


<大袈裟すぎる台湾有事>
台湾有事というのはいつから明確に言われるようになったか考えてみる。2021年バイデン大統領が就任した後真っ先に、中国を最も深刻な競争相手と指名したことに端を発していると思う。そして3月米軍司令官が、6年以内に台湾有事の可能性あり、と追い打ち発言をした。しかし、全く根拠は示されていなかった。これを受けて2022年になると、日本は突然敵基地攻撃能力と言い出し、アメリカは巡航ミサイルの配備が必要だと言い出してきた。

<少ない中国の台湾侵攻の可能性> 
中国が、「中国は1つ」という原則を振りかざして、ロシアがウクライナを侵攻したのと同じように、いつの日か中国が台湾に侵攻するとまことしやかに言われている。しかし、国際政治の世界ではそう単純には動かない。
中国も軍事衝突は避けたいし、アメリカもその点では同じである。だからバイデンと習近平の間で両国は戦闘状態にはしないという約束事が出来上がっている可能性もある。プーチンのウクライナ侵攻もバイデンが暗にウクライナに米軍を派遣しないと言っていたから安心して侵攻したのではないかとも言われている。
中国の台湾進攻がありえないという大きな理由に、ロシアのウクライナ侵攻の膠着状態が挙げられる。プーチンが当初狙いに定めた通り、早々にウクライナをロシアの軍門に下るということができていれば、中国も速攻で同じことをしたかもしれないが、そうはなっていない。その上にロシアは世界中を敵に回してしまっている。このことを見たら中国は同じ間違いをしでかさないように、慎重に振舞うだろう。中国の方がロシアより世界の評判を気にする国である。

<中国の日本への侵攻は台湾の侵攻以上にありえない>
台湾有事というと、あたかも台湾同様に日本にも中国が牙をむいてくるという恐怖心に煽られ、5年間で43兆円の防衛予算、あるいは敵基地攻撃能力ということが盛んに言われている。そして恐ろしいことに、最近の世論調査では両方とも日本国民の半分以上が支持している。
しかし、これもウクライナへのロシアの侵攻を見れば、そんな事はありえないということがすぐわかってくる。つまりロシアはウクライナに侵攻したついでにバルト三国なりフィンランドに手を出し侵攻してなどいないし、そんな気配は全くない。プーチンがいくらウクライナはスラブ系の民族と一緒だ、ルーツが一緒だ、東部ではロシア人が虐待されているといった言い訳を並べ立てても国際世論はウクライナの侵攻さえ許していない。そうした中で近隣の東欧諸国にも手を出すとしたら、むしろお膝元の東欧なり旧ソ連の盟友だった中央アジアの国々も一斉に反発するだろう。

<少ないアメリカの台湾有事参戦の可能性>
次にアメリカが中国の台湾侵攻があったときに参戦するのかという問題が残る。ペロシ前下院議長は突然台湾訪問し、アメリカの台湾支持を表明する形となっている。しかし、それは外交上のことで、私は参戦まではありえないと思っている。今ウクライナがあれだけ酷い状態になっていても、アメリカもNATOもEU諸国も武器を援助するだけで決して参戦していない。ウクライナは明らかに国際的にはロシアと別の国と認められていた。にも関わらず、ロシアの国際法を無視した侵攻に対して、他の国もウクライナを援助しても参戦とまでは至っていない。
ましてアメリカも日本も、「中国は一つ」の原則を認めている。したがって国際法的には、中国が台湾に侵攻したところで内戦に過ぎないのだ。ウクライナですら武器や弾薬を山ほど援助しても参戦しないのだから、中国が台湾に侵攻したところでアメリカが参戦することはまずありえない。中国の日本への侵攻がないのに、日本がアメリカをさて置いて、近隣の友好関係ということだけで独自に参戦することはもっとありえない。
ただ、アメリカが参戦したら日米安保条約に基づき、アメリカが危うくなったら日本が助けるということで参戦しなければならなくなる立場に追いやられるかもしれない。

<軍産複合体に動かされるバイデン政権>
2020年秋の大統領選時、500人の安全保障専門家が選挙向けに書簡を発表し、トランプを同盟国の信頼を傷つけたと非難し、バイデン支持を明確にした。こうしてバイデンは民主党政権であるにもかかわらず、軍事産業から相当支援を受けて大統領に当選してきている。だから前述のとおり、バイデンは真っ先に中国を敵対視するということを明言し、軍産複合体の期待に応えているのではないかと思われる。

<定着しつつあるアメリカ人の血を流さない代理戦争>
その結果、アメリカはウクライナ戦争には直接手を下していないが、アメリカの武器をこれでもかこれでもかと送り込んでいる。これによりアメリカの軍産複合体Military-industrial complexがうまく作用しアメリカの軍事産業が潤っていることは確実である。ウクライナのシリーズの中でも述べた通り(「ウクライナ戦争で得をしているのはどこか」(22.7.20))、バイデンはアメリカ軍兵士の血は流さないという方向にも舵を切っている。だからアフガンからもさっさと撤退している。ところが一方で、どこかでアメリカの武器を使わなかったら、アメリカの軍事産業は立ち行かない。アメリカの巨大な軍事産業はどこかで戦争を起こしていなければならないという悲しい運命にあるのだ。そういう点では血を流さない(国民の批判を受けない)で他国が武器を大量に使ってくれる代理戦争は一番得である。(「日本はウクライナと同じくアメリカの代理戦争化するおそれ」(22.7.22))
ウクライナではアメリカの予算で武器の援助をしている。ところが東アジアの台湾絡みの対応となると、金持ち国の日本が日本国の予算でアメリカの言い値で武器を買ってくれることになる。だからアメリカの軍事産業にとってはこんなにおいしい話はない。
あまり表沙汰にはなっていなかったが、アメリカはかねてから日本の軍備強化を強く迫っており、トランプも再三にわたって安倍首相に対しての武器の購入を求めていたという。そして今回G7の露払い的な訪米で5年間で43兆円の防衛予算拡大を明らかにしたことにより、岸田首相は日米関係は未だかつてない良い状況だなどというお世辞を言われ、喜んで帰日している。すべてアメリカの筋書き通りなのではないか。

<南西諸島へのミサイルの設置は「安全保障のジレンマ」の典型>
もし台湾有事が本当に戦争状態になり、日本がいかがわしい動きをしたら、真っ先に南西諸島が標的になることは明らかである。日本のすることは台湾有事と騒ぐのではなく、そうした衝突を回避する外交努力であり、万が一そういうことが起こっても住民を保護することである。それをミサイルの配置を急いだりして、かえって中国や北朝鮮を刺激しているのが現状である。明らかな自己矛盾であり、典型的な「安全保障のジレンマ(双方が軍拡競争に走る)」である。
アメリカの海兵隊も2025年までに海兵沿岸連隊(MLR)に改編するという。これはむしろ中国や北朝鮮を挑発するような気配があり、軍事的リスクが高まる可能性がある。南西諸島の住民の気持ちも考えずに、本州の思いのままに危険なアメリカ追従一辺倒の外交を繰り広げ、過度な軍事予算を積み上げているのは、結果として再び第二次世界大戦と同じように沖縄を犠牲にする方向に行ってしまうのではないかと危惧せざるを得ない。
言ってみれば、私は台湾有事は最近よく言われる日米合作のフェイクニュースだと思っている。国民は絶対にこんなことを信じて踊らされてはならない。

投稿者: しのはら孝

日時: 2023年3月 5日 18:03