2023.05.16

日本に菜の花を復活させる時が来た -新自由主義と決別し自国に必要な物は自国で作る-23.05.16

<開花が早すぎた「いいやま菜の花まつり」>
 地球温暖化の波がまずまず激しく世界中に押し寄せている。例年5月の連休に咲くはずの菜の花が、今年は1週間ほど早まり、飯山の菜の花祭りの時にはもうすでに最盛期を過ぎてしまったのではないかと心配された。事情があって行けなかったが、とどこおりなく祭りが行われほっとしている。いつも思うことだが、折角菜の花をあれだけ作っておきながら、もう一つの産物である「野沢菜」を油にできないというのは勿体ない話である。いつか本物の菜の花で菜種油を復活させてほしいと思っている。

<50年前の春は黄色で埋め尽くされた北信州>
 私が小学生の頃は、いつも春の写生会が開かれた。5つのよく使う色があった。一つは青空の青、白い雲、そして木々の緑である。緑と言ってもこの5月の新緑の息吹は何色にも分けられそれは美しい。私は秋の紅葉も美しいと思うが、それに勝るとも劣らないのがこの4月の下旬から5月にかけての長野の山々の緑である。  
 しかし、寒暖の差が激しい北信濃の一瞬の煌めきであり、ちょっとすると濃い緑一色になってしまう。ヨーロッパと北米西海岸で生活したが、かの地では一斉に緑になり一斉に茶色になっていき、あまり変化が見られない。その点で我が故郷は、その寒暖の差がそうさせるのか、本当に綺麗である。
 そこにかつては2つの色が加わっていた。田んぼ一面に咲いているピンク色の蓮華であり、もう一つは山麓を埋め尽くす黄色い菜の花である。高野辰之の朧月夜に代表されるように一面に菜の花が咲いていた。これは長野だけではなく、日本中同じだったのではないかと思う。瀬戸内海でも司馬遼太郎は高田屋嘉兵衛を題材にした歴史小説に「菜の花の沖」というタイトルを付けている。小豆島が一面菜の花に埋まっていたからである。
 ところが、これらが二つとも忽然と日本から消えて久しい。

<食用油の値上がりが最大で、米がさっぱり上がらない理由>
 そのナタネの自給率が低いことが昨今の諸物価の値上がりの中でも、食用油の値上がりが一番ひどいととうことに表れている。米価はかつて一俵(60kg)あたり2万6千円だったのが、半値の1万3千円ぐらいになり1万円をも割るかもしれないと言われ、農民は米の値段が上がって欲しいと願っているが一向に上がらない。農家にとっては悲しいことであるが、諸物価値上がりの中で米だけが値上がりしないのは、自給方針を貫いているからである。それに対して一切捨ててしまい昔と比べ自給率が下がりっぱなしのナタネ(自給率0.1% 2022年)や大豆(同6%)など、こうした海外への依存率が高い食料が一番値上がりすることになる。

<軍事、エネルギーばかりに関心が行き、忘れ去られる食料安全保障>
 経済安全保障が必要だということで、その名のついた法律も出来上がり、昨今では日本の防衛力も維持・増強することに国民の半数が賛成している。そうした中で食料安全保障についてはほとんど関心が持たれていない。本当に困ったことがないからかもしれないが、少なくとも私はずっと警告を発し続けてきている。しかし、大半の皆さんは気付いてくれていない。
 政府はウクライナ侵攻、北朝鮮のミサイル発射、そしていつあるかもしれない中国の台湾侵攻といったことではやし立て、軍事力の増強、憲法改正といったことに向けて、宣伝をしっぱなしである。また、電気料金の値上がりにより、原発を再稼働するのも仕方ないといった方向に進んでいる。ところが、食用油が上がったからナタネを復活すべきだといった議論には全く結びついていない。日本人の安全保障についての考え方には、軍事、エネルギー、食料等の分野ごとに跛行性がありチグハグである。どうして一緒に考えられないのか不思議でならない。

<菜の花議連の活動>
 こうしたことをずっと主張してきている「菜の花議連」(唯一花の名前のついた議員連盟)は、今石破茂会長の下、私は幹事長としてずっと下支えをしてきている。今年もその時期を迎え、5月中に総会を予定しているが、どうも皆様方の関心が低いのが残念である。
 なぜ菜の花かというと、まずはどこでも作ろうと思えば作れるからだ。日本では1956~57年がピークだったが、面積にして25万ha、収量は32万tのナタネを生産していた。それに対して今、両方ともほんの僅か1,640ha、3,230t(22年)しか生産しておらず、100分の1以下に減っている。日本国内で作ろうと思えば作れるのに、外国で作ったほうが安いからという理由で、2022年では、国内需要234万t中212万tの約91%をカナダ産に頼っている。自給率の向上ということを考えるなら、真っ先に油に手を出さなければ、油糧種子の自給率がガタガタになり日本人の健康も損ねることになる。世界中にナタネをこれほどバッサリ捨てた愚かな国はない。

<菜の花を復活させたEU>
 大荒れに荒れたガットウルグアイラウンドの期間中(1987~93年)、アメリカとEUがずっと争い続けたものに油糧種子パネルというのがある。EUが小麦の自給だけで精一杯であり、油糧種子はとてもEU内では作れないという判断の下、一旦関税をゼロにしてアメリカから輸入することを決断した。ところが、日本のノーリン・テンと称される日本の小麦「農林10号」がメキシコに渡り緑の革命を起こし、その延長線でヨーロッパの小麦の収量も、10aあたり約250Kgから倍の約500㎏にすることにつながった。その結果小麦畑は半分で済むようになり、野菜や果物だけではとても埋めきれなかった。我が国と異なり減反などはせずに、一旦捨てた油糧種子を作るということで、ひまわりとナタネを復活させた。だからヨーロッパを訪れた時に飛行機から下を見ると春は菜の花、夏はひまわりで真っ黄色である。黄色が消えてしまった日本からみると羨ましい限りである。

<日本の菜の花を復活させ、春を黄色に埋め食料自給率を高めよう>
 そして、6月に収穫ができてその後も作物を作れるという二毛作に適していることが、世界中で作られている二つ目の理由である。それを日本では全く捨て去ってしまった。心ある首長が青森県の横浜町におり、意地でもナタネを作り続け、今でも全国各市町村別生産で4位(他はすべて北海道)の生産量を誇っている。
 今年3月、統一地方選の応援で初めて横浜町を訪れた。当然まだ咲いていない頃だったが、今頃は一面黄色になっているに違いない。景観上の観点からしても菜の花は絶対に復活させて然るべきだと思っている。
 藤井絢子さんが20年にわたって主導してきた「菜の花サミット」も、2022年に一区切りをつけて終了した。ナタネに限らず日本でできるものはなるべく日本で、すなわちどんなものでも最終消費地の近くで生産すべきである。SDGsの時代である。日本も新自由主義的な愚かな生き方をやめて、環境に優しい生き方に舵を切って行かねばならない。

投稿者: しのはら孝

日時: 2023年5月16日 11:10