2023.07.02

政治家にも地産地消が必要 - アメリカは国会議員にも居住要件があり、地元生まれ育ちが大半 -21.06.01脱稿

 私は1987年以降「地産地消」を唱えている。その地でできたものをその地で食べる、つまり「地の物」を食べるという誰もが知っていることを四字熟語にしただけである。

<地産地消は自由貿易の正反対の理屈で、どの分野にも必要>
 地産地消問題を考えた場合、それを突き詰めていくと現下の大原則、自由貿易に真っ向から対立する概念となる。物の移動に伴うCO2の排出を抑えるには、工業製品だろうと何だろうと地産地消が一番なのだ。また、最近では再生可能エネルギーに関しても食と農の分野より頻繁に使われ始めている。
 私は「地産地消」は政治家の世界にこそ必要だと考えている。この件で都市周辺の市町村議会議員が実は3ヶ月の居住要件を満たさず、当選後も住んでいる気配がなく、資格を剥奪されている。ただ、形式的に住民票を置いておくだけでは居住実態があるとは見なされない。そこに住んで生活していなければ政治への要求がわからないからであり、これは国政レベルの政治家にもあてはまる。

<新潟は地産地消政治家ばかり>
 政治家の地産地消を長野県と新潟県で比較してみた(別表)。客観性をもたせるため出身高校のみを基準として地元度合いを判定した。驚いたことに、新潟は衆議院の2区 細田健一と参議院地方区 打越さくらを除いて11人中9人が地元の高校を卒業している。しかも、珍しいことに西村智奈美と森ゆうこは新潟大学卒で、後述のアメリカ並みである。価値観の定まる10代から20代の青春時代を地元で過ごしており、地元の声を知らず知らずのうちに聞き入れる素地ができあがっているのだ。それに加えて近所の皆さんから、中・高・大の学友までネットワークがあるので、「民の声」が入りやすくなってる。

<長野は世襲・落下傘議員がはびこる>
 それに対し、長野は務台俊介と私が地元高校を出ている(つまり地元で生まれ育っている)だけで、他は全ていわゆる「落下傘」である。
 後藤茂之と杉尾秀哉を除く他の4人は皆世襲だが、初代は長野生まれ長野育ちである。長野はリベラル志向が強く、世襲や落下傘に拒否反応を示していいような気もするが、知事まで落下傘であり、どうもそうなっていない。

<選挙区だけは地方だが生まれ育ちは東京>
 そういえば、自民党の幹部は、安倍(山口)、麻生(福岡)、石破(鳥取)、岸田(広島)と選挙区は地方だが、皆東京の高校を出ている。これでは地方に思いを馳せた政治ができない。かつてこうした議論を地方創生特別委員会でぶつけた時に、塩谷立文科相が2世なのに地元の高校を出ていたので、立派だと褒めた。しかし「うちの親父はよく落選していたし、金に縁のない政治家だったから東京に家を作れなかっただけで、あんまり褒められた話ではない」と苦笑した。
 その点、秋田で生まれ育ちで横浜が選挙区の菅首相は都会で議席を得ており地方の声を代表する観点からは好ましい限りだが、農業が嫌で都会へ飛び出したとなると、故郷への愛情は欠けているのだろう。そのせいか農業問題の発言はほとんどなく、自民党農政に農民・農村に対する愛情が感じられない。

<アメリカの国会議員は州に縁のあるものばかり>
 私はふと気になってアメリカの上院・下院議員を調べてみて、再び驚くことになった。アメリカでも「国会議員要覧」と同じように"The Original U.S.Congress Handbook"が同じように国会議員の出生地、出身大学、宗教、職歴等を教えてくれる。長野と姉妹州県のMissouri、私が留学したWashington とKansas を選んで表にしてみた(別表『政治家の地産地消(アメリカ版)+女性議員割合」』。知事も含め、31人中6人が出身地も大学も州外である他は、皆生まれか大学が州内であり、半分の16人は生まれも大学も州内だった。
 また女性議員が11人と3分の1を超え、特にWashingtonは13人中8人と女性が上回っている。彼我のあまりの違いに嘆息するばかりである。

<選挙区に住む居住要件のあるアメリカ>
 アメリカの国会議員は両院とも、選挙時に選出された州の住民であることが憲法で定められている。更に大統領だけはアメリカの生まれも要件にしている。だから、シュワルツネッガーはカリフォルニア州知事を2期務めたが、オーストリア生まれのため大統領選には出馬できなかった。オバマ元大統領はハワイ生まれで幼少期にインドネシアで過ごしたため、出生地にクレームをつける者がいた。

<人口比で定数を決めていたら、地方の声がますます反映されなくなる>
 日本は5年に1度の国勢調査の結果で選挙区の定数なり区割りが改められる。人口減少が続く地方は議席が減少し、大都市圏が増え、それだけでも地方の声が国政に反映されにくくなっている。そこに、その選挙区に住んだこともない都会育ちの2世、3世やテレビでちょっと名の知れた落下傘候補が突然舞い降りてきて当選してしまう。
 制度が同じなのに、新潟と長野でこれだけ大きい差が生じるのは有権者の意識の問題であるのかもしれない。新潟は田中眞紀子、近藤基彦等、世襲議員は姿を消し、残るは高鳥修一だけになっている。

<アメリカでは上院は大小を問わず各州2人、下院は人口比でバランスをとる>
 民主主義の本家のアメリカでは、下院議員(435人)は2年毎に人口に基づいて区割り変更され、毎回変動する。ところが、上院議員は、大きな州(下院議員の数でいうと、カリフォルニア53、テキサス36、ニューヨーク27、フロリダ27)も2人だし、小さな州も2人であり、上院では地方の声がより強く反映される仕組みになっている。日本と異なり、state(州)の権限が強い合衆(州)国の故かもしれないが、バランスが取れているのだ。そういえばアメリカの州stateは、もともとの意味は「国」なのだ。
 ちなみに上院2、下院1の州はアラスカ、モンタナ等8州、上・下院数同数がハワイ、アイダホ等5州である。上院は圧倒的に小さな州が優遇されているのに、他の大きな州から是正を迫られてなどいない。日本の参議院の合区はアメリカから見ると信じがたいルールなのだ。

<落下傘議員を阻止するルールが必要な日本>
 私は21年の5月20日(木)の倫選特委で、今の都道府県体制になって既に150年以上(1871年廃藩置県)、すっかり定着しているし、日本も島根・鳥取、高知・徳島の合区などと地方は切り捨て的な考えは改めて、新しい仕組みを考えていくべきである、と武田総務相に問いかけた。
 このまま定数変更や落下傘議員が続くと、結局日本は都会の人々の意向に沿った方向にだけ進み、いびつな国に造り変えられてしまうおそれがある。やはり、自分の生まれ育った故郷に愛着を持ち、親戚・友人・知人が多く住む地区で汗水たらす議員こそ本来の姿ではないかと思う。
 地域の利益だけを考えるのは国会議員ではないなどともっともらしいことを述べる方々もいるが、いきなり天下国家となると右翼化するか、左翼イデオロギー化する危険の方が大きい。各議員が地元の期待を背にしてトコトン議論し、日本全体に関わる政策を作り上げていくのが国会である。制度として落下傘議員や世襲議員ばかりになることを是正するルールを考えるときが来ている。(2021年6月脱稿、ブログ、メルマガ化は同僚議員に悪いので控えていた)

投稿者: しのはら孝

日時: 2023年7月 2日 10:46