2023.08.08

【日本政府の悪い癖シリーズ①】 後ろめたいと名称でごまかそうとする 日本政府の悪い癖 - 処理水(汚染水)、事故米(汚染米)、自衛隊(軍) -23.08.08 (09.06加筆・修正)

<日米構造「障害」協議、改め日米構造協議>
 私が日本政府の一員として相当深く携わったのに、「日米構造協議」がある。英語は「Structural Impediments Initiative」、直訳すると構造的障害協議である。それを外務省は巧妙に日米構造協議と訳した。内実は、日本が膨大な貿易黒字を貯めていたことに対してアメリカが怒り、日本は牛肉や柑橘の関税を引き下げたりしたがそれではとても埒が行かないので、日本の仕組みそのものを変えようと言い出したことに始まる。
 それがとどのつまりはTPPにつながっているのだ。だから私はアメリカの仕組みを全部鵜呑みにするTPPには大反対した。それを肝心のアメリカが参加しないというのだから笑止千万である。
 構造的障害協議という刺激的名前のままだったら、アメリカの要求はおいそれと受け入れられなかっただろう。これなどは、いかがわしさがあるものの、以下の事例からすると許容される範囲内かもしれない。

<自衛隊と軍とどう違うのか>
 もっと大事な名前の違いでは、日本は「自衛隊」と言っているが、外国では当然「軍隊」として扱われていることだ。歴代政権はずっと「自衛隊は憲法における軍隊ではない」としつつ「国際的には軍隊である」という立場をとっている。政府は決して軍と言わないし、軍事予算とも言わず、防衛予算で通している。安倍元首相が2015年参議院予算委で自衛隊を「わが軍」と言って問題視されたが、その翌日菅官房長官が釈明せず擁護している。

<日本は第10位の予算を持つ軍事大国>
 世界の軍事予算額から言ったら、日本は相当上位にいる。1位は米8,769億ドル(GDPの3.45%)に中露が続く。この辺までは誰もが想像がつく。印とサウジアラビアがこれに続き、後は英685億ドル(GDPの2.23%)、独558億ドル(1.39%)、仏536億ドル(1.94%)と足並みを揃えている。
 それに続くのが、9位で韓国464億ドル(2.72%)、10位日本の460億ドル(1.08%)で大体似たような予算額である。いずれにしても日本は世界で10位に入っている大軍事国家なのだ。世界は自衛のためだけの小さな防衛組織などとは考えていない。(以上はスウェーデンの調査資料による)

<事故で汚染されたので「事故米」>
 2008年、コメの世界で三笠フーズ等が非食用に限定されていた汚染米を食用にして転売していた事件が発覚した。ベトナム産うるち米、中国産もち米等外国から輸入したコメが農薬のメタミドホスとアセタミプリドが一日摂取量以上に残留し、発癌性のカビ毒アフラトキシンを含み汚染されていた。
 コメは許可を得た米屋しか扱えなかったものが、食管法の廃止で登録制となり事実上誰でも扱えるようになり、電話一本でコメの商売ができるようになった。そして次から次へと転売されるうちに非食用がいつの間にか高い食用に化けてしまい、汚染されたものが日本国民の口に入ってしまったのだ。実際のところ誰がどの段階でインチキをしたかわからないのだ。規制緩和の大合唱の下、流通、特に小売りの自由化をしてしまったツケが早くも回ってきたのである。まさに規制緩和の落とし穴である。

<農水省の苦渋の選択>
 この件で、当時の幹部は辞任している。農水省は責任のとり方には厳しい真面目な役所である。ところが、まじめな農水省は、これを「事故米」と称して、決して「汚染米」とは言わなかった。国民が不安を抱えてコメの消費量を更に減らすことを恐れた上での姑息なやり方である。コメ余りに悩まされ続けた役所の哀れなごまかしである。

<2年前はNHKも英語はradioactive water、放射能水>
 そして今回の処理水である。どのように処理しようが、一旦は放射能で汚染された水である。だからタンクに溜められていた。それが増えてしまって、とうとう放出しなければならなくなったものである。それを「汚染水」と言わずに、「処理水」と言いくるめている。正確には「処理済み汚染水」である。
 2年半前の2021年4月13日、2年後を目処に放射性物質トリチウムを含んだ処理水の海洋放出する方針を決めた時に、NHKは国際放送「NHK World JAPAN」では、当初radioactive waterとしていたが、すぐに直訳のtreated waterに改めている。政府は多核種除去設備(ALPS)を使って、「汚染水」から大部分の放射性物質を取り除いているからという理由で「ALPS処理水」と呼んでいる。

<厳しい立場を反映した「汚染」をつける国々>
 ちなみに外国がこれをどのように呼んでいるかというと、各国対応の違いをそのまま反映した呼び名になっている。(以下、2021年4月14日Yahoo!オーサー高橋浩裕氏の記事を参考に紹介する。)

<中国は最も敵対的に『汚染水』>
 中国のチャイナデイリー、新華社通信は、contaminated water(汚染水)と明確に呼んでいる。radioactive wastewater(放射能廃水)、あるいはもっと露骨にtritium-contaminated wastewater (トリチウムに汚染された廃水)という言葉も使う。
 8月24日、日本が海洋放出してから2週間以上経った。政治的理由もあり中国が厳しい対応をしてくると予想されたが、SNSを含めて国民もこれだけの過剰反応をするとは大方は予想できなかった。いろいろ難癖をつけてホタテやナマコの輸入は実質的に止まってしまった。日中貿易関係で今までここまで過激な対立はなかった。

<揺れ動く友好国韓国>
 日本に格別厳しい韓国でも聯合ニュースがcontaminated water(汚染水)と呼び、連日大々的に報じている。
 尹錫悦政権になり、日韓関係は劇的に改善した。ところが、政治が全面に出ている中国と異なり、韓国政府も韓国国民も日本国政府や日本国民よりはるかに放射能には敏感である。北朝鮮の核の脅威にも晒されているからである。殆どの人は気づいていなかったが、2011年3月中旬、福島第一原発事故後に初めて雨が降った日、韓国内の全校を休校にしていた。空気中に漂う汚染物質(ブルーム)が最初の雨でどっと降りてくることがわかっていたからである。
 ところが、日本に気遣う政府と韓国の水産物も風評被害に巻き込まれることを懸念した水産業界も呼び名を処理水に変更しようとしている。
 これに対して、野党「共に民主党」は、「核廃水投棄テロ」と大袈裟に騒ぎ立てて反対し、代表がハンストに突入している。

<中立的な英・独も厳しいが米は日本を配慮>
 中立的ともいえるイギリスのBBC、ロイター、ガーディアンは、contaminated water(汚染水)と統一的に呼んでいる。23年4月原発を全廃したドイツのDPAはradioactive water(放射能汚染水)と呼んでいる。ドイツの呼称には日本はあれだけ大事故を起こしたのに何をしているのか、という嫌味な警告が込められているような気がする。
 これがある程度日本の方針に理解を示すアメリカになると、日本に合わせた呼び名を使っている。CNNは treated radioactive water(処理された放射能汚染水)やtreated water(処理水)と呼んでおり、ニューヨークタイムズも処理水と報じている。ただワシントンポストはFukushima nuclear plant water(福島原発水)と独自の中立的名称を使っている。

<国内外に丁寧に説明し、漁業者への対策は手厚くすべし>
 他国も廃水しているというが、日本はデブリ(格納容器内で溶け落ちた(メルトダウン)核燃料)を冷却し水であり、一旦は汚染されているのだ。だから、他にも寿命が長いコバルト、ストロンチウム、プルトニウム等危険な核種が処理をくぐりぬけているかもしれないし、完全にきれいな水と言い切れないのだ。
 中国や韓国の隣国に対しては特に下手に出て丁寧に説明をする以外はない。IAEAのお墨付きを得て科学的根拠を振りかざしても解決はできまい。もちろん国内、特に漁業者にも納得のいく説明が必要である。
 そして、何よりも現実に輸出もできず、国内消費も落ち込んで苦境に陥った漁業者には手厚い支援措置が必要である。
 自衛隊は、国際的には軍である。事故米は、汚染された米だった。処理水は、一旦は放射能で汚染された水をALPS処理した水である。厳然たる事実をきちんと認めたうえで対応すべきである。

投稿者: 管理者

日時: 2023年8月 8日 11:09