2023.08.27

保険証の廃止はひとまず撤回すべし - マイナ保険証をめぐるトラブルは日本の強引な行政の悪例を示している -23.8.27

 私は色々なカードを持つのはあまり好きではない。持っているカードと言えば、病院のカードぐらいだ。

<カード社会化は世界の趨勢>
 それが、マイナンバーカードでいろいろなカードを持つ必要がなくなるというなら、それはそれでいいことではないかと思い、コロナの対応に関連し、マイナンバーカードを推奨した。しのはら孝ブログ:『なぜマイナンバーを使わないのか(2020.04.29)』『感染拡大・医療崩壊阻止の為、医療総動員体制が必要(2020.04.30)』
 マイナンバーカードは、災害と税金と社会保障の3分野に限定することになっていたが、2年前の河野デジタル担当相の宣言のとおり、来年(2024年)秋に保険証とも結びつけて、保険証を廃止するという政府の方針で大混乱に陥った。

<人為的ミスはつきもの>
 この騒動を見ていると、同情できる点もある。膨大な数のマイナンバーカードを登録するにあたって、例えば同姓同名の人がいたり、違った人に情報を紐づけてしまったりとか、いろいろなミスはどこにもあることであり、それをこの制度自体がおかしいといったことに結び付けるのは行き過ぎだと思っている。政府の立場に立てば、ミスはミスとして認め、修正して正しく運用していく以外にない。

<急ぎすぎが問題の発端>
 ただし、政府のやり方には大問題がある。
 その一つは急ぎすぎである。マイナンバーカードのような仕組みは、日本は他の国よりも遅れている。それを突然世界で最先端を行くデジタル行政とか標語が先走り、デジタル田園都市構想など訳のわからない言葉だけがおどっていた。ここに落とし穴があった。デジタル化が我々国民にとってどれだけの利点があるのかを説明しながら、徐々に進めることなく、普及促進用のマイナポイントで2兆円も使っている。そういったバラマキスタイルで強制的に急いで導入しようとしても、うまくいかないのが当然である。コロナ対策では飲食店の休業も外出自粛もマスクの着用も法律で規制することなく進められた。日本のいつもの曖昧なやり方である。マイナンバーカードも同じように一応は任意となっているが、誰もが必要とする保険証との結び付けは、実質的に義務化と同じである。

<信頼性、機密性が必要>
 カードは確かに便利であるけれども、変な方に使われないというような信頼関係があり、機密性が保たれるといった条件が整った上でなければならない。それを、何から何までカードに結び付けてやるというのは、危険すぎるような気がしてならない。そんなことをしていたら、国民をマイナンバーカードで全て管理して、何から何まで使われ続け、政府が何でもかんでも把握できるようになってしまうのではないかと思う。よく言われる監視社会である。個人の自由が束縛されたり、病歴等が出回ったりしたらたまらない。

<危険防止のために分散化も必要>
 近頃、日本の防衛省の防衛機器の中に中国が侵入し、機密情報が流れたとアメリカ政府が問題にしていると報道された。ロシアとウクライナの戦争もサイバー攻撃合戦だという。似たようなことがそれぞれの個人の情報についても起こりうるのではないかと思う。世界ではカードの一元化ではなくて、むしろ情報が漏れたりすることを想定した上で、それぞれの分野ごとに分散化する方向に向かっているという。G7諸国で官製のカードに保険証を一体化している国はない。後発国であるにもかかわらず先発国を見本としていないのだ。日本は遅れてきたのにもかかわらず、何でもかんでも一緒にしようとしていることにも問題があるのではないか。

<情報資源に金が群がる>
 マイナンバーカードの急激な一元化を私が憂える理由の一つに、IT利権の跋扈がある。今世上では洋上風力発電を巡って政治家の古典的な贈収賄事件が大々的に取り沙汰されている。しのはら孝ブログ:『洋上風力発電贈収賄事件は起こるべくして起こった(2023.08.27)』しかし、今経済界・財界が鵜の目鷹の目で狙っているものとしてカードに入った個人情報がある。
 身近な例で言うと、少々マイナンバーカードから外れるが、コロナ対策でも壮大な無駄が繰り広げられ、IT化なり情報化というのがあり、DX(デジタル・トランスフォーメーション)などという煌びやかな用語の下で、既に多くの企業が群がっている。いろいろないかがわしいことが起こっているに違いないが、一般国民の目にはつかないことが多く、深く密かに進行していると思われる。例えば、コロナで困っている一般の個人事業主には100万円、法人には200万円が持続化給付金として4兆2000億円も支払われた。ところが、パソコンから入力されただけの申請に対して何の確認作業もなしだった。これに対して1096億円もの事務費が補助され、約95%が電通に再委託され、その先の孫請けから9次までの多重下請けが500社に及び、その不透明さが明らかになった。400人分の学生証を集めて事業主として4億円をせしめた者が逮捕されたが、この手の不正は氷山の一角にすぎない。
 更にこの事業主のリストが他に渡り、今後のビジネスの材料にされるかもしれないのだ。政府による監視だけではなく、情報漏れによる民間の悪用である。農林水産省のコメから他の作物への転作事業は、都道府県や市町村に事務費を払い、水田からきちんと麦や大豆に転換されているかの転作確認をしてから、転作奨励金が支払われた。まさにアナログ対応だが、不正は起こりにくい。

<保険証を廃止する理由は見当たらない>
 今の保健証で不便があるかと問えば、ほとんどの国民が全く不便はないと答えるのではないか。そういったものを無理してまで廃止する理由はないはずである。田舎の小さな医院でもマイナ保険証専用の読み取り機が必要となり、これでデジタル関係企業はどれだけ儲けるのか。私はこういったところに利権が生じる余地が多くあるのではないかと思っている。だから、高齢者の不便を顧みることなく事を進めているのだろう。
窮余の一策で8月4日の岸田首相の記者会見では、保険証の廃止は決定せずに、この秋の点検作業を終えてからと言っているが、すでに資格確認証の有効期間1年を5年にすると宣言している。それは保険証を5年間使っていいといっているのと同じことであり、政府は変なところで面子にこだわっているような気がしてならない。素直に非を認めて従来の保険証とマイナ保険証の並立を認めればよいだけのことである。岸田首相は世界最先端のスマート行政府と大見得を切った手前、後戻りできないでいる。国民はしっかりとこの迷走振りを注視しており、メディアの世論調査では8割もの人が、岸田首相は指導力が発揮できていないとしている。当然不支持が支持を上回るようになった。

<政府は立ち止まるべき>
いろいろなところで便利になっていくのはいいと思うけれども、ともかく日本政府は急ぎすぎて、それを使う国民がついてこられずにいる。今回のマイナ保険証のように人的な登録ミスも起こし、逆に不便さや不安を生み出してしまうのでは、本末転倒だと言わざるを得ない。時には立ち止まりながら進めていってもいいのではないかと思う。

投稿者: しのはら孝

日時: 2023年8月27日 20:01