2023.09.03

洋上風力発電贈収賄事件は起こるべくして起こった - 日本の最後に残された大規模開発投資は日本の海岸を潰す - 23.09.03

 マイナンバーカードについて、政府がマイナ保険証で暴走し、国民が不安にかられて大混乱に陥るとは誰も予想できなかったのではないか。
 それに対して、私が完璧に予測できたのが洋上風力発電をめぐる事件である。なぜならば、今後日本に残された大規模な事業は洋上発電以外にほとんどもう見当たらず、皆が一斉に飛びつくことが明らかだったからだ。

<洋上風力発電は日本に残る最後の大規模事業>
今、日本の大事業で進行中なのはリニア新幹線である。JR東海の単独事業6兆円で進んでいた。JR東海の葛西敬之名誉会長と安倍晋三元首相の親しい関係によるのかどうかは知らないが、3兆円の投資が政府から行われ、9兆円の大規模プロジェクトになった。となると日本に残された大事業は、日韓海底トンネルの10兆円くらいである。尹錫悦政権で日韓関係が急速に改善されているとはいえ、旧統一教会絡みの事業には国民もそっぽを向くであろう。
となると、もう洋上風力発電ぐらいしか残っていない。日本の周りは海だらけであり、そこら中が洋上風力発電の可能な場所だと勘違いされ、期待が膨れ上がっている。

<信じ難い漁業法改悪>
 政府は着々と洋上風力発電開発のための制度を整えていた。日本は2050年の脱炭素社会の達成を目指しているが、2021年洋上風力発電は全体の僅か0.9%でしかない。これを増やしていくために、ここでもマイナ保険証と同様に相当荒っぽいことを急いでやっている。私がその酷さに気付き噛み付いたのは、漁業法の改正である。
 資源管理はその地域で最もその資源に依存している人たちに任せるのが一番であるということは常識である。世界の海が乱獲に晒され、漁業資源の枯渇が問題となった。長い国連海洋法条約会議を経て200海里の漁業水域制度ができて、沿岸国に漁業資源管理が任されることになった。その延長線上で、身近な沿岸漁業者に資源管理を任せるのが1番いいということになる。だから、IWCでは南氷洋や公海の捕鯨は禁止されたが非常にうるさい反捕鯨団体ですら原住民捕鯨と称される近海の捕鯨にはほとんどクレームをつけていない。
ところで、日本の漁業法は元からそれを地で行っていた。漁業者、漁業協同組合、そこに住んで漁業で生活する人たちに優先的に漁業権が与えられることになっていた。漁業権というのは農地の所有権とは違い、5年に1回あるいは10年に1回、都道府県知事の許可で認可されるもので、権利としてはかなり危ういものだが、ずっと地元の人たちに引き継がれてきた。それを企業参入ということで、「有効かつ適切」に利用する者なら誰でもいいということに突然法律が改正されたのである。これにより、極端な例で言うなら、ユニクロやソフトバンクでも参入できるようになった。

<日本の沿岸から漁業者を追い出す算段>
この法改正の裏側には、官邸が取り仕切る規制改革推進会議、国家戦略特区諮問会議が、八田達夫、原英史の2名の委員が中心となり、会合を頻繁に開き、水産庁を呼びつけ、そして官邸主導で捻じ伏せて改正が行われた構図がある。世間を騒がせた岡山理科大学の獣医学部と全く同じ構図だったが、表面化せずに静かに進んでいた。2018 漁業法改正に関係する会議の開催状況.pdf
 その他に再エネ海域利用法もほぼ同じ時期の2018年11月に制定され、翌年4月に施行された。こちらは漁業権よりははるかに長い30年間も独占的な権限を発電事業者に与えるものである。かくして政府は着々と日本の沿岸から漁業や漁業者を駆逐して日本沿岸を洋上風力発電の乱立する海に変えてしまおうとしているのである。企業は漁業権を得ても漁業をしている振りをするだけですぐに消滅させ、もっと儲かる洋上風力発電へと明け渡すことになる。最初から農業などするつもりのない企業が農地を所有して、転売利益だけを狙っているのと瓜二つである。

<秋本議員の指摘はまっとう>
 そして第一回目の入札が行われ、秋田沖2カ所と千葉の銚子沖においては、すべて三菱商事グループが落札した。それにクレームをつけたのが新興の事業者であり、その一つが今回問題となった日本風力開発である。売電価格の安さだけで入札が行われ、一番低い価格を付けた三菱グループが独占落札したことに対して、入札の条件には運用開始時期や工期の短さ等も入れて、他の事業者も参入できるようにすべしと、秋本真利議員がまっとうな提案を質問の形でも行い、入札要件が変更された。ただ、クリーンエネルギーを標榜しつつ実は汚い数千万円のお金が動いたことが問題なのである。
 私は秋本議員を直接知らない。河野太郎デジタル大臣と同じく自民党の中では数少ない反原発の同志である。原発推進派からは邪魔者だったのだろう。

<日本は設置地元に産業と雇用を創出すべし>
 笛を吹く人は多いが、日本の経済界・産業界の洋上風力発電の蓄積はほとんどない。基本的技術は大半が欧州企業頼みであり、熟練を要する海上作業員すら欧州頼みなのだ。
 ところが、世界風力会議の調査によると、2022年に導入された風力発電の6割弱を中国勢が占める。太陽光パネルに続く中国への一極集中である。デンマークのベスタスが14%のシェアを占め1位だが、2位の金風科技(ゴールデンウィンド)が13%となっており、更に上位15社中10社を中国企業が占めている。そこに日本がどのようにくい込んでいくか正念場を迎えている。政府が責任を持って舵取りをしなければならない。
 実は私も洋上風力発電については違った角度から経済産業委員会(6月7日)で質問している。
 私は原発が都会へ電力を送るだけで地元に電力多消費型産業が根付かなかった反省に立ち、①地元にこそ持続的な産業を育成し、②だからといって欧州勢を締め出す愚は避けてうまく調整していくべき、③その点では三菱商事グループしか落札していないのでは、裾野が広がらないので、他の企業にも参加しやすいようにするべき等を指摘した。
 この時に太田房枝経産副大臣は、今後の第二弾の入札以降は多数の事業者に参入機会を与え一事業者に集中しないよう落札額の制限も設けると答弁している。流れとしてはいい方向に向かっているのだ。

<日本沿岸に洋上風力発電はなじまず>
 詳細は省くが、ヨーロッパでは漁業や航行の妨げにならないようにまとまった広い海域が指定され、そこ以外には設置できない。また、景観を重視して沿岸からは見えないように数十キロ沖までは設置できないことになっている。2019年秋、「高レベル放射性廃棄物議連」の視察でデンマーク、オランダ、ベルギーの視察に行った時は、早朝6時に港を出て、遥か沖合の区域に行くのに数時間かかっている。それを日本では沿岸からすぐ見える所に造ろうとしている。
ヨーロッパの北海やバルト海は遠浅で、数十キロ海岸から離れようとせいぜい水深60m位であるのに対して、日本はすぐ深くなるため、海岸から数キロのすぐそばに設置される。景観被害だけでなく、低周波音の人体への影響、もちろん漁業への悪影響も大きい。だから、日本では海底に基礎を設置する「着床式」ではなく海に浮かべた構造物に設置する「浮体式」を中心にするという。五島列島には小さい浮体式が設置されているが、大型台風で大荒れの海でどうやって浮体式が生き残れるのか、私は技術的にも疑問だと思っている。

投稿者: しのはら孝

日時: 2023年9月 3日 10:14