2023.12.10

政治

【参議院選挙制度シリーズ②】 参議院は衆議院より権威づけして各県2人にするのも一案 - 衆議院のカーボンコピーから脱すべし - 23.12.10

<3.03倍の一票の格差は合憲>
 参院選について、最高裁は10年(最大格差5.01倍)13年(4.77倍)を違憲状態とした。これを受けて公職選挙法が改正され、2016年選挙から鳥取・島根、徳島・高知の合区を導入し、格差は3.08倍に縮小した。更に19年に定数も変更して3.00倍となったが、22年は具体的な措置がとられず、最大格差は僅かだが0.03ポイント拡大した。
 これに対して10月18日の最高裁判決は、1票の格差が3.03倍だった22年7月の参院選は「投票価値が著しく不平等だとは言えない」として、合憲とする判断をした。但し、「立法府には格差のさらなる是正を図り、再拡大させない取り組みが引き続き求められる」と注文を付けている。

<政府も立法も参院格差に取り組む姿勢がない>
 岸田政権は、少子化対策に3.5兆円、防衛費に向こう5年で43兆円としたために増税が必要な状況でありながら、明らかに選挙目当てで減税とか税収増の国民への還元などと言い出して混乱を極めている。立法府も参議院改革協議会で協議しているが、進展していない。

 そうした中、前号で紹介したとおり、徳島・高知の合区の補欠選挙では、2人とも高知県の候補者だったことから、徳島県の参院選投票率が高知県と比べて16.83ポイントも下回った。合区導入前の13年には島根県60.89%、鳥取県58.88%で全国1位と3位だったが、合区後は徐々に投票率が下がり、22年には島根は56.37%で4位になり、鳥取に至っては48.93%と32位となっている(余計なことだが2009年の政権交代選挙では全国の平均投票率が69.28%であるのに対し、島根はいつものとおり1位で78.35%、長野は2位の75.67%だった。長野県民が熱しやすいことを物語っている)。最高裁判決も、合区により投票率の低下が見られるとして、「実効性や課題などを慎重に見極めつつ広く国民の理解も得ていく必要があり、なお一定の時間を要する」としている。
 私はそんなに時間を要していては合区の県民に失礼だと思うので、慎重とは言えないがずっと考えてきた改定案を示してみたい。ただ、比例区についてはややこしいので、ここでは取り敢えず地方区について私案を述べる。

<参議院でも大都市部のみ定数増>
 私が政界に入った頃は長野県も含めて2人(全体では4人)区が10区もあった。2004年、2007年と参院選が行われたが、当時は民主党も勢いがあり、自民・民主でほぼ決まりだった。こんなことを言うと失礼かもしれないが、熾烈な衆議院選挙からみると、参議院地方区(2人区)は選挙などとは呼べないものだった。だから、古くから政界ではゴールデンシートとかプラチナシートと呼ばれていた。それが衆議院と同様に人口比で調整が行われたことから2人区が瞬く間に減り、今や茨城、静岡、京都、広島の4県のみになってしまった。
その一方で北海道(2→3)、千葉(2→3)、埼玉(2→3)、神奈川(2→4)、愛知(3→4)、東京(5→6)、大阪(3→4)、福岡(2→3)と大都市部が増えている。つまり、参議院でも衆議院と同様に国会における都市部の支配が進展し、地方の声が反映されにくくなっているのだ。

<参議院は各都道府県代表とし、2名ずつとするのがよいのではないか>
 ズバリ結論から言うと、民主主義の先進国アメリカの例に倣うことだ。
 アメリカでは、下院は435議席で、2年ごとに人口比により選挙区が改正される。上院は50州が小さくとも大きくとも平等に各州2人ずつで、2年ごとに3分の1ずつ改選される。アメリカは合衆(州)国であり、州の権限が強いことからこのようになっている。州の権限が異なるが、アメリカの州も日本の県も歴史は大して変わらない。日本は1871年の廃藩置県から多少の変化はあったが1888年に今の県境に決まり、それ以来135年、すっかり都道府県が定着した。
 ちなみにアメリカは最初から合衆国だが、ハワイ、アラスカも今の州境が定着したのは1960年であり、それ以来63年しか経っていない。上記2州以外の48州が決まったのは、アリゾナ、ニューメキシコが入った1912年で、まだ111年しか経っていない。最近の日本では2005年に長野県の山口村が岐阜県に編入されただけで、日本の県のほうがアメリカの州より定着しているのである。
 その代わり、衆議院の定数は人口比の代表とすることである。最高裁は合憲の水準を参議院で3倍にしているのに対し、衆議院では2倍としているが、もし参議院地方区を各都道府県2名とするなら、衆議院は限りなく平等にしてもよいと思う。これにより衆議院は人口比で一票の格差もなく平等になり、地方の声は参議院で大幅に吸収されることになり、バランスがとれることになる。

<多くの先進国は都市部の支配を抑制し、上院は人口にかかわりなく平等の定数としている>
 アメリカの例を出したが、格上の上院に対して各県なり地方に、人口の多寡にかかわらず平等の定数にしている国は、OECD加盟国の中でも米の他に、豪、スイス、西と4ヶ国がある。また、都市部の支配が強まることへの抑止から、伊、墺、加、独、仏は一定の配慮をしている。
 日本と同じく全く人口比というのは少数派で、かつての西側ではオランダのみで、あとはチェコとポーランドがあるだけである。おわかりと思うがオランダをはじめ3ヶ国とも平坦な国であり、人口比だけにしてもかまわないのだろう。同じく地方といっても、裏日本と呼ばれる日本海側や高い山に囲まれた中山間地域とオランダの地方は全く違うのだ。

<知恵を出して地方に配慮する先進諸国>
 一票の格差はアメリカ(上院の定数:100)で68.27倍(カリフォルニア州とワイオミング州)、豪(76)15.12倍、スイス(46)47.72倍、西(259)151.58倍と日本と比べて巨大になっているが、国民の間から不平等だという不満は出ていない。
 配慮している国の例を挙げると以下のとおりである。
伊(315):各州に最低7人、その上で人口に比例して配分、格差2.5倍
墺(61):最も人口の多い州から12人、その他の州はそれに応じた数、最低でも3人、格差1.77倍 
加(105):4つの区域ごとに定数24人、総督が首相の助言で任命、格差21.80倍
独(69):各州3~6人、各州少なくとも3票、200万人以上4票、600万人以上5票、700万人以上6票、州政府が任命、格差は13.17倍
仏(348):下院議員、上院議員、州議会議員、県議会議員、市町村議会議員の代表と選挙人用とする。間接選挙、格差5.06倍
 人口比重視の3ヶ国の定数及び格差は、
オランダ(75)1.09倍、チェコ(81)1.48倍、ポーランド(100)4.15倍となっている。

<過密、過疎の解決は国会議員の定数是正から始める>
 大半の国民は気付いていないが、まさにこの姿勢が地方の衰退、急速に進む過疎、首都圏への一極集中の要因であり、もっと言えば日本の危機につながっているのだ。なぜならば、地方が立ち行かなくなった国は必ずや衰退していくからだ。
 また、注意すべきは、大半の国は国会議員と呼びつつ基本的には地方の代表と位置付けていることである。米をみればわかるが、そうは言いつつ国全体の施策を審議し、国のために議会活動するのは当然のこととなっている。

 全く別の機会に厳しく指摘するが、総予算114兆円と予算総額が増え続けていく中で、農林水産省の予算だけが減り続けている。経済安全保障が大切だと言いつつ、食料安全保障が全く蔑ろにされている。そして、こうした地方軽視の姿勢が国会議員の定数配分にもくっきりと表れているのだ。蘭、チェコ、ポーランドを除き、多くの先進国は都市部の支配にならないようにと地方への配慮をしているのに、我が国ではそうした仕組みが全くなく、地方に非情な国である。

 私は43兆円の10分の1でいいから、農業によって中山間地域、離島、半島に注ぎ込むことこそが日本の防衛にもつながると思っている。

投稿者: しのはら孝

日時: 2023年12月10日 21:32