2024.03.19

環境

【花粉症シリーズ1】花粉症対策には森の改造が必要 -悪い臭いは元から断つべく、排気ガス対策と杉以外の木の植林で解決すべし-24.03.19

 杉花粉症は相当前から問題にされていた。ところが、岸田内閣になって突然国政の課題としてクローズアップされるようになった。あれこれかまびすしい意見が飛び交っている。

<毎年の症状に音を上げる者>
 花粉症に悩まされる人は、本当に辛いようだ。かくいう私は幸いにして今のところは発症していない。よく花がむずむずするし、所かまわず大きなくしゃみをして周りの人に迷惑をかけており、本会議場の隣の同期の同僚議員からは、「嫌な者の発言中はわざと大きなくしゃみをしている」などとあらぬ嫌疑をかけられているが、花粉のせいではない。もともと喉が弱く敏感なだけだ。
 私の周りでは、地元秘書には一人もいないが、東京の会館の秘書は、春と秋の旬(?)には、目はうるみ、赤くなり鼻水はたらたら、時には発熱すると困っている。その症状には傍から見ていても同情する。だから国民の声として花粉症対策が望まれるのはよくわかる。もっとも同秘書はスギ花粉よりブタクサだという。何しろ原因花粉は16種もあるのだ。

 最近、評論家の大前研一氏も自ら花粉症に苦しめられているようで、いつものドギツイ口調で花粉症対策の必要性を論じていた。治ることなく、ただ症状を和らげるだけで国民がどれだけ薬代を払っているのかしれない。それをしなくてすむようになれば、どれだけ国民が喜ぶかもしれないし、仕事もきちんとできるようになり国益にもかなう。といった論調である。
 どうも個人的怒りが根柢にあり、いつもの論理的筋立てから少しはずれていることに苦笑しつつ読んだ。いつもは論旨明快な大前氏も、それを狂わせるほど苦しめられているということであろう。

<遅ればせの発生源対策>
 政府は2023年5月30日に「花粉症対策の全体像」を取りまとめているが、10月11日に関係各省が対応を協議し、花粉症に関する関係閣僚会議で花粉症対策として初期集中パッケージを決定した。
 まず、発生源対策である。(1)スギの人工林の伐採、植え替えの加速化。そして次が(2)花粉の少ない苗木の生産拡大である。10年後にはスギ人工林を2割減らし、約30年後には花粉発生量の半減を目指すというのだ。しかし、30年前から対策を講じてきているのに、一向に効果が上がっていない。
 次に飛散対策として、花粉飛散予測の精度を高くして国民に早めに知らしめる。これも先にスタートした熱中症アラートの真似であり、気が利いた天気予報ではとっくの昔からやっていることだ。飛散が本格化する3月上旬には、AI等を活かして予測をするといったきれいごとが並ぶが、発生してしまったらいくら警告されても防ぎようがあるまい。コロナ対策同様に、いつもどおりマスクをきちんとしたり外出を控えるしかない。
 3番目に発症・暴露対策として、舌下免疫治療法治療薬を増やすとか、スギ花粉に強い体質をつくる「スギ花粉米」の実用化といった付焼刃的な対策が並ぶ。

<ネイチャー・ポジティブの見本を作る>
 花粉の少ない杉の苗の育成は、気の長い話でありすぐには花粉は少なくならないだろう。減税が法律が通り施行される6月からというのと同じで早期解決策にはなっていない。
 花粉症に強いコメの開発は米余りを少しでも解消しようという農林水産省のいじましい熱意が伝わってくる。しかし、これまた迂遠な対策でありとても抜本的対策とは思えない。
 上記のような策はどうもパンチが効いていない。
 SDGsの時代である。環境対策も兼ねて日本の荒れた山を日本にもとからある木を中心とする自然林、天然林の強い森に改造することぐらい大胆な政策を実行すべきだ。折しも、生物多様性の重要性にかんがみ、陸も海も2030年までに30%を保護区域にする「30by30」目標が進行中であり、それに積極的に関与し、日本の美しい自然林を回復すべきなのだ。それこそがまさに今求められているネイチャー・ポジティブの見本である。要は悪い臭いは元から断たないとならないのだ。

<一気に雑木林を増やす>
 今、日本には444万haの杉の人工林がある。勿論一つの樹木としては最大の面積であり、国土総面積3,700万haの10%を超える。2位(ヒノキ260万ha)、3位(カラマツ102万ha)を大きく引き離している。確かに早く育つし、材質が加工に向いており、杉が好んで植林されたのである。しかし、杉林の暗い森は下草も植えず丘陵な地では地盤が危うくなる。気候変動もあり日本では自然災害が頻発し、大水害そして山崩れ、土石流の発生も懸念される。我が国は世界平均の3倍の1800mmの降雨量に恵まれているが、最近は線状降水帯が頻発し、局地的豪雨に見舞われることが多い。災害防止対策のためにも杉があちこちの傾斜地を埋め尽くしているのは好ましくない。脆弱極まりない山林だからだ。
 それならば国土の強靭化のためにも、環境保全のためにも土砂崩れの起きない木、すなわち地場に育つ雑木林の占める面積を多くするのが最善の策である。杉を伐採し、その後にまた花粉が少ないだけの同じ杉を植えるのではなく、地元の木の林を復活するのである。そして、その事業費はいくら国が補助しても少なくとも花粉症で困っている4割の国民は文句を言うことはないだろう。むしろもっと早く、もっと多くやってほしいと願っているに違いない。ここで地元の木というのは、故宮脇昭横浜国大教授がずっと唱え続けた強い森を造る要件である。もちろん、人工林をすべてやめるということではなく複層林(10mの人工林と10mの雑木林を交互にする)化をすればよいのだ。また森林環境税をこうした事業に使うことにクレームをつける人はいないだろう。

<一気に林業対策を拡充、財源は外材への高関税>
 花粉症対策を奇貨として、中山間地域の過疎地域の活性化、そして人口の地方分散等に役立てることである。
 急坂の人工杉林で伐採作業するための路網の整備を大々的に進め、高性能機械の導入も一挙に促進させる。そして経営難にあえぐ木材工場を再生し、地域の雇用を拡大する。更に、そのためには外材の輸入を抑制し、国産材への転換も促す必要がある。日本は今まで何でも自由化し、関税の引き下げをしてきたが国土の保全のため、国民の健康のため、関税を引き上げて、それを国際社会にも認知させるのだ。
 どうせ対策を講じるなら、これくらいの思い切った総合対策が必要である。

<日本の空気をきれいにする>
 それから忘れているようだが大事な予防策がある。スギ花粉ばかりが標的にされているが、スギ人工林444万haはともかく、昔から杉林はありスギ花粉は飛来していた。それにもかかわらず、そんなに花粉症はひどくなかった。花粉症が初めて問題にされたのは、日光街道の渋滞の激しい交差点近くの住民だった。つまり明らかに大気汚染が近隣住民の体を蝕んでいたのである。人にもよるが、田舎の綺麗な空気の中で育った人の方が花粉症は少ない。つまり、我々現代人の生み出した汚れた物質が体に入り込みそれがために拒否反応を示しているとも考えられる。食品添加物、農薬とアトピー性皮膚炎の関係と同じである。
 中国は今必死で植林し、PM2.5対策を講じている。日本も排気ガス対策を講ずべく、パリ協定に則り石炭火力発電所をやめ、自動車の排ガス規制を強化していくべきである。それもせずに、スギばかりに罰をなすりつけるのは不公平である。

投稿者: しのはら孝

日時: 2024年3月19日 11:48