飯山市の80周年は二地域居住により4万人の人口で迎える ―東京から1時間38分は通勤圏でもある― 24.08.21
飯山市では市制70周年を迎えて式典が開かれた。雪深い奥信濃、ご多分に漏れず70年前は4万人の人口だったのが、減りに減って今や半分の2万人を切っている。人口減、過疎は日本の縮図であり避けては通れない。その意味では先進地なのだから、元気な市になるようにと応援し続けている。
<活用し切れていない旧「青年就農給付金」>
10年前の農林水産副大臣の時、青年就農給付金制度(45才未満で就農する者に対して5年間150万円給付で合計750万円、夫婦なら1.5倍の225万円で合計1,125万円)を創設した。私は地元で生まれた地元の事情のわかる者に一番先に手を挙げてもらいたいと思って制度設計をした。そのため8月末の概算要求が決まったので、他の県や他の市町村にはすまないが、最もこうした援助が必要な岳北地域(栄村、野沢温泉村、木島平村、飯山市)を予算折衝で決まる12月になる前の秋に説明に回った。当時、島田・栄村長は「10組の夫婦が子供を2人連れて戻ってきたら栄村のムードは変わる」とすぐに反応。初年度2人が決まった。賢い飯田市は全員が夫婦で14人を受け入れるなど、各市町村が飛びついた中、飯山市はゼロでがっかりしたことを覚えている。
<都市と農村地域の時間距離はかつてより短縮されている>
しかし、今一番有望なのは、二地域居住の受け入れである。
まず、距離感。46年前の1978年アメリカ留学中に中野は東京からどれくらいで行けるかと聞かれたときにこんな話しがあったことを覚えている。「国鉄の急行で長野まで6時間、長野電鉄で1時間弱で合わせて7時間だ」と答えた。「遠いなあ。距離は?」「東京の北西に約250km」「それは近い。車で2、3時間ちょっとじゃないか」「いや、そんな短時間では行けない」「日本には高速道路もないのか」「東京・長野間にはない」
今では高速道路が整備され、東京まで約3時間。アメリカの高速道路の制限速度は60マイル(約90km/h)。なので、アメリカでは1時間で大体100kmが目安。だから近いと言われたのだ。今やっと日本も同じになった。
<日本は人口が多く集中している>
オランダのマーストリヒトで24年前、2000年OECD主催の国際シンポジウムに 「地産地消・旬産旬消」で基調講演をした。3人のスピーカーがいたが質問は私に集中し、以下のような質疑応答があった。都市の消費者と地方の生産者の産消連携、都市近郊の農業の質問で、「日本は小さい国だからできるのか」と質問を受けた。私は「日本も細長く、北の端の北海道と東京ではそんなことできない」と答えると「北海道の人口は?」と再質問。「400万人」と答えると「デンマークと同じ、どこでも都市近郊農業が可能ではないか」。そこにアメリカ代表が「テキサスとロサンゼルスやニューヨークの間ならできないが、カリフォルニア州内ならできる。日本はカリフォルニア州より小さい」と続けた。
<リモートワークの時代が近づいている>
つまり発想の違い、価値観の違いである。ここらで頭を切り替える必要がある。
私が言いたいのは交通網の発達により、日本は急速に狭くなり、往来がしやすくなっているということ。それに加えて諸外国と比べるとともかく人口が多く、都市に集中しているのだ。これを踏まえて地方の活性化を考えなければならない。更にコロナ禍を経て、何も危険な大都会にしがみついていなくともよいではないかという考えが広まりつつある。地方が居住地として重要性を増し、かつてのように都会へ都会へとなびく必要がなくなっているのではないか。
<フランスでTGVが発達した理由>
今、注目のフランスを見本としよう。
フランスは日本と並んで高速鉄道網(TGV)が発達。それはなぜか。ガソリン代は高く、高速道路料金も高い。従って拠点から拠点へは安いTGVで移動、都市部は公共交通機関で駅へ。田舎も第一に公共交通機関だが、必要ならレンタカーを使うことが一般的。TGVも高速で行くよりずっと安上がり(←日本は新幹線が高く、2人で東京と長野を往復すると車の方が安くなる)。レンタカーも安く便利なネットワークができている。
日本よりだいぶ前から完全週休2日制。パリは稼ぐために仕方なく居住し、週末は田舎の地方の家に戻る。移動手段はTGV、家族は地方に住み、働き手はパリに単身赴任というケースもある。つまり働き手は日本の国会議員と同じく金帰月来(金曜日に地元に帰り、月曜日にパリに出勤)。従ってパリと地方の間の週末の交通渋滞はそれほどない。
<都市住民こそ地方・農村の行く末に関心あり>
1週間ぶっ続けの休暇が年5、6回取得でき、大半は地方の家で過ごす。老後もパリには住まず地方に落ち着く。
このような二地域居住が相当定着している。だから、都市住民も老後暮らすことになる(お世話になる)地方・農村の行く末を我が事として重大関心を寄せている。1987~93年の農作物自由化が叫ばれたガット・ウルグアイラウンド(WTO)で100万人の農民がパリになだれ込むも、市民は拍手で迎え入れた。なぜなら、地方がガタついて困るのはパリ市民も同じだからだ。日本のように都市住民と地方(農村)の分断はない。
<川勝平太前静岡県知事の先見の明>
日本でも川勝平太前静岡県知事は早稲田大学教授時代に二地域居住を飛び越えて、軽井沢町に移住した。きっかけは第5次全国総合開発計画(「多自然居住地域の創造」を目標の1つにかかげる)策定のための国土交通省の審議会の委員を務めていたが、「委員に1人も地方在住者がいない」と指摘され恥じ入り、母校早稲田大学の校歌の一節にある都の西北(彼なりのジョーク)を辿っていって軽井沢に落ち着いたという。新幹線通勤で月15万円と少々高いが、東京では車の駐車場が月7万円すると思えば仕方ないかと思えたのだそう。本当は東京から1時間ちょっとの移動時間なので、場所によっては千葉、埼玉、神奈川よりも短時間で帰れるのに、2次会は以後一切付き合わずに済むようになる。おまけに車内は何にも邪魔されずに読書ができ、学者にはピッタリ。ただ、私のこの一文でメリットを知って長野から新幹線通勤者が増えると、軽井沢から乗る私は自由席が使えなくなり、500円高くなると案じていた(同じくジョーク)。
<飯山は第2の軽井沢になれる>
久方ぶりに電話で川勝さんと話しをしたとろ、静岡県知事をしていたため15年放置した自宅を改修中だという。軽井沢町は人口が15年前と比べて倍増し2万人。但し住民票を東京に残したまま大半を軽井沢で生活している者も1万人近くおり、東京24区のようなものだと川勝さんは言っていた(またジョーク)。つまり、埼玉都民、千葉都民、神奈川都民と同じというのだ。そして飯山は東京25区を売りにしたらいいのでは、というアドバイスを頂いた。
問題は新幹線通勤の定期代が企業の必要経費としてどこまで認められるかだ。今は相当遠くまで認められているはずなので、東京―飯山間の通勤もずっとしやすくなるのではなか。
<二地域居住を岳北地域で定着させる>
だから今、移住や関係人口等といろいろ言われているが、一番は高給を貰っているサラリーマンに飯山に住んでもらうことだ。家族は飯山にいながら、本人が毎日出勤するか(在宅勤務OKの会社が増えている)、本人が金帰月来するかは仕事の内容によるだろう。それはパリと同じだ。在宅勤務の増加や週休3日制が叫ばれている折、飯山に住んで東京なり首都圏で働くという生き方も1つだと推奨していくべきではないか。まずは定着率の高い順に飯山出身者、次に長野県出身者、次にIターンである。
かくして二地域居住で80周年は人口が4万人に戻っていることを期待する。