米不足、米価高騰は米をないがしろにした報い -安全でおいしいコメには消費者はもっと支払ってもよいのではー24.09.30
<円安はもろに食品価格の高騰につながる>
著しい円安、それに伴う輸入食品価格の高騰がずっと続いている。石油等の鉱物資源も原材料価格が高騰してコスト増になったが、輸出する時には有利になり、少しのタイムラグはあるが帳消しになる。それどころか、多くの輸出相手国では日本製品が相対的に安くなり、多く費やされることになり、輸出が増え、輸出企業は軒並み史上最高収益をあげている。
一方、輸入して日本で消費するだけの食品は円安の影響をもろに受け、食品価格は値上がりし続けており、国民は物価高にあえいでいる。自民党と立憲民主党はそれぞれ9人と4人が立候補し、派手派手しい党首選を繰り広げていたが、その時の世論調査でも国民が望む施策の上位に物価対策があげられている。
<円安でもコメ価格だけは安定した理由:自給>
そうした中、コメ価格だけが安定し、少しも値上がりしなかったのである。なぜなら国内で自給しており、円安の影響が少なかったからである。そして、最近まで売られているコメは、2023年産、つまり肥料、農薬などの農業資材が円安により高騰する前のものだったからだ。
<インバウンド(外国人観光客)のコメの消費拡大も軽視できず>
そこに、コロナ前のピークの年(2019年)を上回る外国人観光客約3000万人が訪れている。そんなものの需要はしれていると思われる方が大半だと思うが、バカにならない。以下に数字で示す。
1人あたり日本に10日間滞在と仮定
3000万人×10÷365≒82万人
日本の人口が82万人増えたことになる
82万人×50Kg≒4100万㎏≒4万t
つまり、4万t米のコメ消費が増えることになる。人口減、高齢化などにより農業の消費者が10万tずつ減っている中、4万tも増えるというのは大きな変化ともいえる。日本全体の消費量782万tのうち、数%増えるということになる。そして、たった数%増えただけでもコメは不足するのだ。コメは価格弾性値が低い(価格に関わりなく消費される)ものの典型なのだ。
<コメは一般の商品とは異なる>
これはあくまでも推測にすぎないが、南海トラフ地震臨時情報に応じた家庭での備蓄にインバウンド消費が加わり約20万tもの需要増があったと言われている。それで需給バランスがガタつくのがコメなのだ。かくして、主食のコメが不足していると大騒ぎになった。しかし、別に不足して飢餓が生じているわけではない。他に代替する食べ物(パン類、麺類など)は十分にあり、もうすぐ新米が出回ってくる。だから、短期的にみれば食料安全保障の観点からみてもそれほど問題はない。
<役人時代の「コメ価格が高騰し、少しの(困った方がいい)発言で陳謝」
私は、役人時代、あちこちにいろいろな農業・農政関係記事を書いた。書き上がって叱られたことも多くあったが、最も顰蹙を買ったのが、こんなにコメをないがしろにしている国民は、コメが不足して困らなかったらコメを国内で生産することへの理解が進まないから、いっそのこと一度うんと困ったらいいんだ、と講演で話してしまい、それが活字になってしまった。
農水省の役人が、国民が困った方がいいと放言していると批判されて、謝らざるをえなくなった。
私の意見は、早く食料、なかんずくコメの必要性に気付き、手遅れにならないうちに、水田を守り、コメを国内で自給し続ける方向に転換したほうがいい。そのきっかけとして少々痛い目に合った方がいい、というものだった。
<思いがけないタイ米輸入>
1993年には東北で2年連続発生した冷害の影響で、タイ米を輸入せざるをえなくなった。大半の人は慣れない外米に辟易した。しかし、すぐ忘れてしまったようだ。そして今回のコメ不足は、多分その時以来だと思う。
シャインマスカットで売上高1億円を超える農家が何軒も誕生している一方で、米生産農家は20haの大規模経営でも採算が合わない。昔は「三反百姓」と言われ、3反歩(30a)あれば一家が暮らしていけたが、今は全く事情が異なる。これではコメを作る農家が急激に減少するのは当然である。
コメは値上がりしていると新聞は書きたてる。しかし、ご飯茶碗一杯30~40円ぐらいなのだ。それに対してシャインマスカットは、一房1500円~2000円。ペットボトルの飲み物150円、喫茶店のコーヒー500円、マクドナルドのビックマックは480円。コメはあまりにも安いので、ラーメン屋で1000円ラーメンのラ-メンに一杯のご飯をサービスで無料提供しているところも多い。
<卵とコメの歴然たる違い>
よく、卵は物価の優等生と言われる。1960~70年代、農家の庭先には必ず鶏小屋があり10~20羽の鶏がいた。いわゆる庭先養鶏であり、牛、羊、山羊等の糞尿を合わせた堆肥作りの山があった。その頃は長野県でも17万農家が鶏を飼っていた。しかし、今は日本全体で3000経営体。その規模は数万羽~10万羽。耕種農業と異なり、狭隘な農地のハンディはないからである。つまり飼料穀物(トウモロコシ等)を輸入して、それを餌にして、農家(とはいえない大企業体)が卵に加工しているだけなのだ。だからコストは下がる。
しかし、コメをはじめとする小麦、大豆、ナタネ、そば等の耕種農業は、広大な農地で機械化して作るアメリカ、カナダ、豪州等と比べていくらあがいてもコストは割高になる。だから国が戸別所得補償で農家が損をしないようにしておかない限り、コメ作りは続けられない。それをほとんどしていないから、あちこちに休耕田が増えていくのだ。
<必需品はコメでも何も「地産地消」が原則>
先進国で日本ほど農業をないがしろにしている国はない。EU諸国は農民の収入の7~8割が政府による所得補償である。このことをいくら言っても国民に理解してもらえていない。他省庁の予算と比べ、農業予算が減り続けていると私は何回も警鐘を鳴らしてきた。
今自民党の総裁選で9人の候補の大半が、それこそ典型的なリップサービスで農業予算を増やすと言っている。5年間で43兆円、1年で8兆円を超える防衛省予算に対し、農林水産省予算は1年で2兆円強にすぎない。
何が必需品か。シャインマスカットは違うが、コメ、小麦、大豆、ナタネなどは必需品である。それを何でもかんでも外国から、市場から調達していればいいと考えてその道を突っ走ってきたのが日本である。コロナの時にマスクが足りず、アベノマスクの大騒動、諸外国は医療関係の必需品にも気づき、国産化を図っているが、日本は相変わらず、儲けにつながるモノしか作ろうとしない。これでは、罰が当たるだろう。
<コメはもう少し高くてもよいのではないか>
コメ不足は絶対に生じさせてはならない。しかし、私はコメ価格が10倍になどなったら大変だが、他の食品価格同様に2~3割値上がりしたところでグダグダいうべきではないと思っている。コンビニの菓子パンも100円未満はなく。150円~250円である。おにぎりは、人気のツナマヨや日高昆布は120円ぐらいだ。塩むすびが150円になり、お茶碗一杯が50円になっても、日本の農家が生産を続けられるように、日本の消費者も少しは我慢をしてコメの国内生産の維持に協力してもよいのではないかと思う。
<代表選、総裁選でコメ不足問題はそれほど議論されない不見識>
今、防衛を声高に叫ぶ政治家が増えている。コバホークとなるあだ名の者もいた。高市早苗は、日本の国の安全防衛とやたら強調していた。安全保障は何も軍事安全保障だけで成り立つものでない。大半の者は食料安全保障に関心が薄く、コメ価格の高騰、コメ不足に直面しているというのにどうも庶民感覚に乏しく、地方・農村への思いが足りない候補ばかりだったような気がする。