2024.12.13

政治

103万円の解決は見苦しい政治決着でしかない-納税したくないから働くのをやめるのは倫理観の欠如ではないか-24.12.13

<世界から評価される日本人のまじめさ>
 東日本大震災の時に暴動も起きず、食料不足にもならなかった。被災者はじっとこらえていたのである。今、スクランブル交差点でお互いに譲り合って行き来している姿に外国人観光客は驚き、写真を撮っている。他人のことを慮る日本人の気質がまさに表れているのだ。つまり、日本人は世界からは非常にまじめで評判がよいのだ。

<働き控えによる労働力不足という屁理屈>
 その自制の効いた他者への思いやりを示せる好ましい日本人が、お金のことで狂い始めている。先の総選挙で一挙に脚光を浴びることになった103万円の壁問題もその一つである。
 学生アルバイトの収入が課税最低限の103万円(最低限の生活日に課税しない基礎控除48万円とスーツ第等会社員の経費の給与所得控除55万円の合計)の壁を超えると、親が扶養控除を受けられなくなるのでアルバイトをやめざるをえない「働き控え」がおきているというのだ。そのため労働力不足の中で、ますます人手不足になっている。

 先の選挙で103万円を178万円(75万円は全額基礎控除に相当)に上げるということをSNSで拡散した国民民主党が、7議席から28議席と大躍進を遂げた。減税や社会保険料の軽減等により「手取りを増やす」ことで若者の関心を集め、教育費の負担が重い世帯をも取り込んだ。まさに都知事選と兵庫県知事選と同じ現象である。

<学生の手取りが増えれば×親の扶養控除>
 大学生(19~22才)を抱える親に対しては、特定扶養控除(所得税63万円、住民税45万円)が認められている。ところが、学生が手取り103万円を超えると、扶養対象外となり、親の税負担が増え、世帯全体(親と学生)の収入が減ることになる。ただ、学生は要件を満たせば、勤労学生控除(27万円)の対象となり、年収130万円まではかからないし、所得税は5%、住民税は10%にすぎない。

<×地方自治体の税収減>
 国民民主党の要求通りだと税収が7~8兆円減り、地方自治体が4兆円減となり窮地に陥るという懸念が生じている。
 総務省は、個人地方住民税だけで4兆円の減と試算。22年の地方税収44兆円の約4割に当たり、個人住民税の3分の1になるとしている。全国知事会の村井嘉広宮城県知事は、宮城県の県市町村合わせ810億円の減収となるので、代替財源の確保が必要としている。
 これに対し、玉木代表は「7兆円をどこから削るか政府・与党が考えることだ」と無責任な発言をしている。更に手取りを増やすことにより、消費が拡大し税収が増えると言い訳しているが、経済効果による税収は不安定で、とても恒久財源にはならないし、それが地方に波及することは少ない。

<△最低賃金よりも物価やパート賃金の上昇に合わせる>
 国民民主党は、95年に103万円が決まった。その間に最低賃金が73%上がったので、それに合わせて75万上げて178万円にしろというものである。30年近く据え置きはおかしく、定期的に税率の調整が必要であるいという点では一理ある。
 しかし、最低賃金よりも消費者物価やパート賃金と連動させるほうが合理的である。約10%しか上がっていないので、今後の値上がり分まで組み入れて、130万円ぐらいにとどめるのが理屈に合っている。これだと減税額は7~8兆円から1兆円強程度に抑えられる。

<△解決のため、特定扶養控除で十分ではないか>
 民間シンクタンクの試算によると、高所得者ほどメリットが大きく、低所得者への所得再分配の観点から問題もあるという。特定扶養控除の上限を引き上げれば税収はそれほど減らず、働き控えの解消もできるとの指摘もある。

<×稼いだお金に応じて納税義務が生じるのは世界共通の常識>
 私はこの論争には根本的な問題があると思う。
 なぜなら、稼いだらそれに応じて税金を払うのが応分負担からして当然のことである。それを税金を払わなくてすむ103万円で働くのをやめるというのは、納税義務を果たすという倫理観の欠如以外何物でもない。義務教育を小中高とすべて公立だとすると、1人あたり1,240万円の税金がかかっている。「労働の控え」は国民の3大義務のうちのもう1つの義務である勤労の義務をもないがしろにしていることになる。
 学生本人が103万円を超えると、親が特定扶養控除からはずれるから働くのをやめると言いながら、一方で大学まで教育の完全な無償化を要求するというのは、あまりに虫がよすぎるのではないか。
 十分に働いて納税しても手取りが多くなるようにすれば、本人、国(地方自治体)、雇い主の三方良しになるのだ。どうしてこのように真っ当に考えられないのか不思議でならない。

<△学生も低所得の親も税額控除ではなく別途救済すべし>
 他の根源的問題は、学生がパートでそれほど働かなくてはならないのか。親も貧困で、少しでも税を控除してもらいたいという状況なのか。
 もしそうだとしたら、授業料を引き下げたり、奨学金を多く出すなり、別途の方策で解決すべきである。また親の収入確保も、同じで別の手法もあり、公平であるべき税をいじくってすますべき性格のものではあるまい。

<△税こそ、与党税調ではなく、公開の議論で決めるべき>
 次に税の決め方である。予算は国会の予算委員会で審議されるが、税については、与党自民党の税調で決められてきた。そして今も103万円の壁については、自公と国民民主党の間でやりとりがあり、他党は蚊帳の外であり、決定のプロセスもマスコミを通じて知るだけであり、梨の礫である。いつまでも決まらないので、森山幹事長が口を挟み、補正予算を速やかに通すため「178万円を目指して2025年から引き上げることを合意した。これに対して、伝統ある自民党税調は不満のようだと伝えられている。
 予算と比べて理屈で決められる税こそ国会の場できちんと議論して決めるべきテーマである。自民党は、自公が少数与党になった今、幹事長だ、党税調だといったコップの中の争いはやめて、国民生活に直結する税の決め方を見直していいのではないだろうか。

<△少数与党が国民への迎合を競うことになっていいのか>
 少数与党下での税の決定プロセスの改善がなされないまま、報道によると12月11日自公国の3党で「25年に178万円引き上げ」を目指す合意が成立したという。また、ガソリンの暫定税率を廃止することも合意されたという。
CO2の排出を抑えないとならないという世界の潮流の中で、税率を下げ、ガソリンを使いやすくするという制度改正は、世界から笑われるであろう。もともと日本国民のここまで国民に迎合していいのか私は疑問に思う。

<△金融教育の前に納税義務の教育が必要>
 金持ちや、儲けた企業から税金をちゃんととれと言っておきながら、いくら低所得者とはいえ自分たちは少しでも税金を納めないようにしたいというのは勝手すぎるのではないか。国民の金融資産が2200兆円といわれ、一方で国家の借金は1300兆円を超えている。私はないも世上言われる「ザイム真理教」に与するわけではないが、国民が勝手に迎合するポピュリズムには歯止めが必要である。政権与党にはもっとビシッとしてもらわないと困る。
 企業の投資控えに対し、NISAを導入するばかりでなく小学校から金融教育などと叫ばれているが、その前に納税義務についての教育こそ必要である。私は税金を納めるのが嫌だから働くのをやめるという感覚がどうしても理解できない。

投稿者: 管理者

日時: 2024年12月13日 18:06