【私立高校無償化シリーズ④】学校給食は地産地消・旬産旬消と有機農産物が先- 何でも無償化は理念なきポピュリズム政策のお手本 -25.4.8
私は教育制度に関しては素人であるが、学校給食の問題は50年前から取り組んできているテーマであり、玄人と言ってよい。ところが、ここにも深く考えもせず、無償化という議論が極めて荒っぽく進められている。結論を先に言えば、全国一律の無償化は絶対反対である。うまくいかないし、「農と食」の大切な接点を混乱させることが予測されるからである。
<懐かしい(家から野菜を持って行く)「給食当番」>
団塊の世代の私が小学校3年生の時(1958年頃)にパンと脱脂粉乳で学校給食が始まった。その当時、それらがアメリカの余剰農産物のはけ口として押し付けられたものだとは全く知る由もなかった。パンは丸いあんこの入ったアンパンが5円、三日月型のクリームパンが10円で、めったに買ってもらえなかった。それが、毎日パンが食べられるなんて夢のような嬉しい話だった。しかし、それほど美味しいものではないことはすぐに知ることとなった。農村地帯で現金収入もそれほど多くないため、上級学年には「給食当番」(盛り付けする当番ではない)があり、大半が農家だったので、当番の生徒は家にある野菜を新聞紙でくるんで風呂敷に包んで首からぶら下げて持って行った。同じ地域でだいたい同じ作物を作っているので、毎日芋ばかり、白菜ばかり・・・といったおかずだった。もちろん、橋本環奈演じる米田結のような若い栄養士さんなどいるはずもなく、各学校に給食おばさん(という近所の人)がいた。少しでも支出を少なくするための工夫であった。貧しいが故に、アメリカの押し付け以外はまさに地産地消だったのだ。
<ケチな日本が学校給食に使い出した妙な「先割れスプーン」>
1990年代、日本は高度経済成長を遂げ学校給食もずっと豊かになったはずだった。ところが給食代を少しでも安くと、スプーン、フォークにも使用できる先割れスプーンが導入された。当時給食費は月5,000円より安かった。つまり、1食200円そこそこである。それでも払えない家庭があって、給食費の徴収が担当の先生の悩みの種の一つとなっていた。
この話を当時フランス人にしたところ、目を丸くして驚いた。なぜなら、当時は、今日の日本に来る中国人観光客同様、(ちょっと下火になっていたが)円高バブル期で、日本人がパリ観光に押し寄せて、フランス人も羨む高級化粧品やブランド物の衣服やバッグをドサッと買い込んでいた。その金持ち日本人がなぜ給食費をケチるのか。子供の成長や日本の伝統の継承はどうなっているのか、とそれこそ詰問された。今もそうだが、そこそこのナショナリストの私でも納得する反論はできなかった。恥ずかしくてもともと痩せているのに身が細る思いだった。
<子供用食器で小学生からフランス料理を教え込む>
私はフランスに赴任していた時、就学年齢に達したばかりの娘と息子を、最初から日本人学校に行 かせるつもりはなく、現地の公立小学校に行かせるつもりが、先生が英語を話してくれないので、病気欠席等の事態を見越し、近くの「二か国語」(bilinguals)と校名に入った、英語が通じる私立に通わせた。
フランスの学校の授業料は大して高くなかったが、給食費は高く月2万円だった。ただ、所得により数段階に分かれていいて、0円の子もいたという。前菜(オードブル)、メイン料理、デザートとフルコースの昼食1食1,000円、日本の約5倍である。子供用の小さなスプーン、フォーク、そして美しいシャレたお皿。フランスの伝統料理を子供の頃からしっかりと教え込んでいるのだ。そして味に関しても、正直な息子は「お家よりずっとおいしいよ」と、母親には知られないよう私にこそっとこぼしていた。
<和食が世界文化遺産の一方で相変わらず月5,000円の給食費>
今では和食が世界文化遺産となり、鼻高々だが、当時は少しも伝統的日本料理を子供に教えようなどいう者はいなかった。今では「食育」が大事だと口先だけでは宣伝されているが、23年5月現在の給食費は月額で小学校4,688円、中学校5,367円と相変わらず少しも金をかけていない。
そして、いきなり無償化である。通常は一汁三菜の揃った昼食だが、佐賀市では半数の学校で牛乳のみの給食が提供されており、半数以上が弁当を持参し、他は給食センターの250円の弁当だという。つまり各地の対応は様々なのだ。23年9月時点で722自治体(4割)が、子育て支援の一環として、既に給食の無償化を導入している。しかし、その前に「地産地消・旬産旬消」と「有機化」であり、私はこのことを40年前から主張してきた。農政のプロの石破茂首相も、参院予算委で給食無料化への取り組みを問われ、地産地消と有機農産物を導入すべきだと答えている。さすがである。
<地域の創意工夫を認め、不公平をなくす配慮が必要>
もし無償化が実施されたとして、ある学校が食の安全にこだわり、地域の農業への貢献も加味し、近隣の有機農産物だけで完全有機の地産地消昼食を実施したものの、経費が倍かかったら、国や地方自治体は一体どう支援するのだろうか。とても公平性は保てまい。他にも様々なアレルギーを抱えた子供もおり、その対応も大変である。無償化等を続けていくと大給食センターのありきたりの無味乾燥な給食になっていくのが目に見えている。私は条件の異なる地域の創意工夫を促すためにも、全国一律の給食の無償化は反対である。一律3000円/1人当たりといった中間的支援にとどめるべきである。
なぜなら、困窮家庭への援助は別途済んでおり、1ヵ月5,000円弱、年間5~6万円を高所得者の分まで国が負担していては財政健全化は進まない。私が育った頃の田舎では塾や習い事などなかったが、今では習い事は広く一般的であり教育費よりも校外経費に多く費やしているという、私はそれよりも給食費こそ親が負担すべきではないかと思う。
<学校給食で進める有機農産物の利用>
学校給食がいの一番に取り組むべきは、食の原点である地産地消・旬産旬消(すなわちそこでできたものをその時に食べる)である。
選択的規模拡大から外れた農地は大半が耕作されず、遊休農地、不耕作地だらけである。大規模とはできなくとも、小規模とも野菜を作っている農家ならいくらでもいる。家族や我が子、我が孫が食べる野菜に変な農薬など使うはずがなく、自ずと有機農業・安全な農産物になっていく。そのためにもひたすら効率化を追い求める大給食センター方式はやめ、なるべく近くで料理らしい料理を提供できるようにすべきである。
2023年度に、学校給食で有機農産物を使った自治体が278市町村と過去最高だった22年度4割以上になった。大半が「みどりの食料システム戦略」の下に指定されている「オーガニックビレッジ」が9割を占めており、一歩一歩有機化が進捗していることがうかがえる。有機野菜は市場より安定的に高値で買われており、この点でも生産者が安心して転換できる動機になっている。
<学校給食は日本農業の活性化の原動力になる可能性大>
各地の特徴ある学校給食が、日本の地域食の担い手となり、継続していかなければならない。それをアメリカの輸入食材ばかりの安い無味乾燥な学校給食に変えられたらたまらない。幸い小中学校は市町村立である。各地で創意工夫を凝らして競って子供に「お家よりも、〇〇食堂よりも、〇〇レストランよりもおいしいよ」と言わせる学校給食を造り上げていかなければならない。
そしてもう一つ大事なことは、(これは別稿に譲るが)学校給食は衰退する日本農業を活性化する糸口になりうるのだ。