第一に人里に出てきた時の対応、次に熊の研究、第三に森の居場所の確保 - 世界一熊の棲み処が近接している日本は、熊の対処に国が責任を持つ以外なし ―25.04.14
4月9日、痛ましいニュースが入ってきた。2023年飯山市で罠にかかっている野生動物を熊とは思わずに見に行った男性が、まだ元気のよかった熊に逆襲されて命を落としている。それに加えて、今回は3人が大怪我をしている。
<市町村長の判断で銃猟が可能に>
このように全国各地で熊の被害が一昨年から続出している。そのため環境省は、保護管理法改正法案を今国会に提出した。今まで市街地では銃を撃つ事は禁止されていたが、野生動物が人の日常生活に侵入した場合、人への危害を防止する措置が必要となった場合で、銃猟以外の方法では捕獲することが困難であり、地域住民に銃弾が到達の恐れがない場合、市町村長の判断により、猟友会等に捕獲を実施させることができるというものである。こうでもしなかったら、おちおちと熊の出そうな所で生活できず、当然の改正である。飯山市の例でいえば、江沢市長の判断で、熊の銃猟ができるということである。我が党も賛成した。
<自然と餌を奪われた哀れな野生動物>
そもそも論を言えば、日本は世界で最も住居と森が近接している国ではないかと思う。何しろ国の6割から7割が山林であり、そこは熊にとっては絶好の棲み処であった。ところが戦後ハゲ山になった山に緑をということで、隅から隅まで杉、ヒノキ、長野県の場合はカラマツ等が植えられた。これら人工林が雑木林を少なくし、熊の食料であるどんぐり、あるいはミズナラといった木が減ってしまっている。この実が凶作により少なくなると、食べる物を求めて、普段は近づかない山里に降りてきて、残された果樹、それから農家のまわりに植えてあって取り残されている柿類を食べたりしている。そればかりではなく、街にも出没し、スーパーに入り込んだこともある。熊は今や山奥にいる野生動物ではなくなっている。
<難しい人と熊の共存>
通常は6月から10月にかけて熊が出没し、12月頃になると冬眠に入っていく。ところが、各地で冬眠しない熊の存在が知られるようになり、人里近くで冬眠していたのだろう、春先からも出没するようになった。
日本の熊(ツキノワグマ)は、九州では絶滅している。四国には20頭ぐらいしかいないという。本州は中国地方にもいるし、特に東日本に多い。長野県にも熊が多くいて今回の事故が起きている。北海道には一回りも2回り大きいヒグマがいる。OSO18が家畜を襲い、やっとのことで仕留められた。
<個体管理から始まる熊との付き合い>
例えばカナダではどの地域にグリズリーベアが何頭、ブラックベアが何頭というのをきちんと把握し、個体管理から始めて共存のルールを細かく作り、実行している。
事情が違うとはいえ、日本の場合はかなり荒っぽいやり方になっている。人に危害を与えそうな街に出てきた場合は、いきなり打ち殺すのだ。これだけ密着度合いが高いと仕方ないことだと思う。一方で、麻酔銃で一旦眠らせて山に放つべきだというようなことがよく言われるが、街中に出てきて興奮した熊にそんな悠長なことを言っていたら、その間に被害に遭う人がでるのでそう簡単にはできない。従って今回の法改正はある程度は仕方がないと思う。しかし、これは単なる対処方法にすぎない。
<野生動物の住める、食べられる混交林造成>
となると究極の解決法は何かというと、森に居場所をきちんと作るということである。手間はかかるが、常緑針葉樹の緑に完全に覆い隠されて雑木林がなくなり、熊の餌が無くなった状態を一刻も早く改善することである。今幸いなことに、戦後植えた木が伐採期を迎えている。奥山まで伐採ができないため、そのまま放置されている。ところが、林道を作り高性能の機械で切れば、有効活用ができる。再生造林といわれるが、その後の再生は人間に役立つ人工林を半分にとどめ、残りの半分はその地に元々生えていた雑木林に戻す、いわゆる混交林とすればよいことである。食べ物があれば熊は決して外には出てこない。それから熊には人間を襲うというような習性はない。雑食であり、基本的には植物性のものが食料である。ところがそういった対策がさっぱり練られていない。
<中山間地では犬の放し飼い>
先週の環境委員会で30分間質問した。野生動物の撃退方法として中山間地域では犬の放し飼い禁止を解き、犬の小便の匂いをそこら中につけ、動物の縄張りの習性をもって、熊を人里に近づけさせないようにするということである。何回もこの件で行った、長野・新潟県境の秋山郷には江戸時代に書かれた「北越雪譜」という本がある。そこには、全部の農家で犬が飼われていたと書かれている。もちろん犬と熊が喧嘩したら犬が負けるに決まっている。だけど犬が置いてあるのは、熊が来たということを教えてくれることもあるけれども、田んぼや畑に行っている時に、そこら中に犬の小便を頻繁にして犬の匂いをしっかり植え付けているからだ。熊には人間の2000倍の嗅覚があるという。犬を始めとして動物はおしなべて、人間と1桁も2桁も違う嗅覚を備えている。それを利用するのだ。
ところが、狂犬病予防の観点から犬の係留が始まった。狂犬病は19世紀中期まで世界で蔓延していた。その予防のために日本では1950年(昭和25年)に狂犬病予防法が設置された。同法の10条に「都道府県知事は、狂犬病が発生したと認めたときは、直ちに、その旨を公示し、区域及び期間を定めて、その区域内のすべての犬に口輪をかけ、又はこれを係留することを命じなければならない。」と規定された。一方、日本で狂犬病が発生したのは1956年が最後であり、狂犬病はその後70年間発生してない。今も一般的に犬の係留を義務付けることを定めた他の法律は存在しない。ところが、厚生労働省も環境も言い訳をするが、ともかく県の条例等で一切の放し飼いが禁止されている。都会でそれをすぐに解けとはいわないけれども、田舎では良いのではないかと思う。
私もテス(TSタカシ・シノハラをもじった)という犬を飼っていたが、畑にいつも連れていっていた。1日中畑を駆け回って遊んで一緒に帰ってくる。多分テスの小便が我が家の田んぼや畑の隅々までまき散らされていた。
<国立熊研究所の設立>
次に、今回新しく私が提案したのは、熊の研究所を環境省が中心になって作るべきだということだ。獣医学部で動物行動学というのが学ばれたりしている。アメリカにはWildlife Management(野生動物管理学部)というのがテキサスA&Mなど10数大学にある。一方で日本はこれだけ野生動物が身近にいるにも関わらず、野生動物の研究が行われていない。こうした大切なことは都道府県に委ねるべきではなく、国すなわち環境省が責任を持って熊の行動形態を研究し、人里に近づかないように、そして出てきても穏やかな対処ができるように検討すべきだと思う。兵庫県は大したもので、森林動物研究センターを持っている。
<消防団の若手に狩猟免許を持ってもらう工夫が必要>
人里に出てきた場合のことでもう一つ提案しておいた。県庁や市町村の担当者が猟銃の免許持ってことに当たれるようになっている。しかし、役人には人事異動があって配置が変わる。そういう点では、私は地元にずっと住んでいる消防団の若い人たちに国が全面的に援助して猟銃の免許を取ってもらい、その人たちにいざという時に助けてもらうのが最も現実的ではないかと思う。火事とか水害時は消防団が大活躍して住民の生命と財産守ってくれているのだが、熊による害も言ってみれば自然災害の1つである。これは環境省から総務省消防庁にお願いして早急にできることではないかと思う。若い人たちが意気に感じて、狩猟免許を取りにやってくるんじゃないかと思う。ヨーロッパ社会ではハンティングは貴族のスポーツとみなされている。
このように日本はクマ対策を本格的に国が中心なって考えていくべき時に来ていると思っている。