【令和の米騒動シリーズ①】コメ不足は突然ではなく、長年コメを厄介ものにしてきた当然の報い―無策ならコメ不足は10年後には常態化は必至―25.05.09
<23年には食品の中でコメだけが値上がりせず>
2023年、急激な円安で輸入に頼る、食品、建設資材、燃油等が軒並み高騰した。食料自給率38%ということは62%が輸入であり、あらゆる食品が値上がりして家計を圧迫し始めた。特に小麦関連製品や油を使用する食品の値上がりが著しかった。小麦の自給率16%、油はほぼゼロからして仕方がないことであった。そうした中、どんなに努力しても赤字のコメ農家を尻目に、コメの価格だけは微動だにしなかった。なぜなら、ガット(WTOの前身)ウルグアイラウンド(UR)の決着時ミニマム・アクセスと称して、約77万tの輸入が義務付けられていたものの、ほぼ完全自給しているからである。
<自由化の道をまっしぐらに進んだ特異な国、日本>
EUは、UR当時農産物64品目を守っていたが、日本ほど何でもかんでも自由化をしてしまった。麦は400万t近く生産していたが、いつの間にか大半を外国産(米豪加)に頼るようになっていった。味噌、納豆、醤油と日本の食生活に欠かせない大豆も自給の姿勢は全く見られず、春先には日本の農村を真っ黄色に染めたナタネもいつの間にか消えていった。かろうじて高関税を課して守っていた牛肉、柑橘も日米交渉で散々新聞紙上を賑わしたが、1988年輸入割当の撤廃、関税化、税率の段階的な引き下げ等、自由化の波に呑み込まれていった。
<苦渋の減反・転作政策>
戦後十数年は、コメもビルマ、タイ等から輸入していた。朝日新聞が「米作り日本一」を表彰してコメの生産増を支援してくれていた。ついに念願のコメの自給を達成し、ピーク時には生産高1445万tに達した。しかし、自給したのも束の間、食生活の洋風化等により、コメに余剰が生じ、減反・転作により生産を抑制して米価の下落を食い止める必要に迫られるようになった。
こうした中、1971年国が主導して減反政策が導入され、1978年にコメの生産抑制が本格化した。私自身、アメリカ留学から帰国して配属されたのが農産園芸局総務課・農蚕企画室、そこで転作を担当することになった。作らなければ金を出す。というこの苦し紛れの政策は、経済界、マスコミ、消費者からムダの代表として厳しく批判された。こうした論調の中には農家・農村への思いやりはほとんどみられなかった。
<浮かれている間にコメ不足に見舞われる>
URが最終決着した1993年、冷夏に端を発する凶作(作況指数74)によりコメ不足に陥り、タイ等から2,000万tも輸入して凌いだ(「平成の米騒動」)。1995年にこうした事態に対処すべく、備蓄制度が開始された。私はこれで少しはコメ農家や農村を維持しなくてはという風潮が生まれて欲しいと願ったが、喉元過ぎれば暑さ忘れるを地で行き、減反を続けるコメ農家のことなど全く顧みられなかった。
また1995年には「食管赤字」が問題にされ食管法が廃止され、コメも一般の物品と同じく自由化され市場原理に任されることになった。かつて米屋しか扱えなかったコメがスーパーでもコンビニでも何処でも買えるようになり、それ以降米価は下がり続けた。消費量が一人当たり120kgだったものが次第に減り始め、今や半分以下の58kgにまで減ってしまった。更に2018年安倍政権下で減反が形式上は廃止された。しかし、実質的には生産目標が示され生産調整という名で継続されてきた。
<必然といえる令和のコメ騒動>
そこに降って湧いたのが、2024年夏から続く「令和の米騒動」である。なぜそのような事態になってしまったのか、結論から言うと、よってたかってコメをいじめてきた罰があったのだ。
以下原因を箇条書きにしてみる。
① 2023年、気候変動の影響で高温の夏、日本一の米の産地新潟県でコシヒカリの一等米が過去最低の4.7%を記録した。全体では14.8%とこれまた低かった。近年は大体75%なので凶作ともいえる生産減となった。ただ、作付指数は99~101とほぼ平年作であり、量は維持されていたが、肝腎の魚沼産コシヒカリが最初から足りなかったのである。
② 8月8日南海トラフ地震の臨時情報(巨大地震注意)が流れ、相次いで台風が接近すると疑心暗鬼が生じて、真面目な消費者がコメという必要品の買い占めに走った。1973年のオイルショック時のトイレットペーパー買い漁りと同じ現象である。
③ コロナで中断していたインバウンドが復活し、3670万人もが訪れた。美味しい和食を本家本元で食べに来たのであり、コメの消費も拡大した。
他に
④ 度重なる自由化で農水省は、米の流通全量がどれくらいか把握できなくなっており、民間在庫が減少していることが掴めておらず、24年度産の米が出回れば米不足も収まるだろうと楽観視していた
⑤ 備蓄米100万tは、大凶作等の場合にしか放出しないという原則を守り通し、米価高騰、米不足に柔軟な対応ができなかった。
⑥ 中間の業者が値上がりを見越してコメを抱え込んだ。
といったことが挙げられる。
私はコメ不足が一時的だとは思わない。まして備蓄米を放出したところで、根本的解決にはならず、長期的にはコメ不足はずっと続き、日本の食料安全保障は大きく揺らいでいく端緒になると思う。
<主食のコメには国の介入が必要>
4月中旬現在、二度にわたる異例の備蓄米の放出にもかかわらずコメの小売価格は前週に比べ8円(0.2%)高く、14週連続値上がりを続け、5kg当たり4214円と前年同月(2068円)比2倍の最高価格に達している。先進国で主食たる食料価格が2倍になっている国は前代未聞だと思う。ふるさと納税の返礼品にまで影響がでていることである。須坂市ではシャインマスカットが品切れになり、山形県産等を送るという不始末をしでかしたが、コメ産地はお断りしたり、翌年回しにしたりと真面目な対応をしている。
ただ、私の素直な感じでは今までは安すぎたのであり、本来はもっと高くてもよいと思っている。今急に上がって家計が苦しんでいることは大問題であるが、長期的には量を確保するとともに、もっと高値安定に持って行くべきである。コメは必需品であり、ちょっとした過不足で価格が大きく変動する(価格弾力性の低い)物品であり、国がもっと介入して、価格の変動を少なくする新たな制度が必要である。
<コメ価格の乱高下を抑える仕組みが必要>
今回値上がりに対して備蓄米の放出が行われたが、値下がり時に農家を救済する有効な仕組みはなく、生産者・農家に対してフリーな形となっている。コメは主食であり是正が必要であり、食管法の復活と言わないまでもコメはやはり他の作物と違う扱いをして、生産も価格も安定させる必要がある。日本に例えば700万tは不可欠として、作付面積〇〇万haは死守すべしといった見通しを示し、その確保に努めるべきである。またその実現のために国が支援して行くべきである。
次に流通面では,今までの自由化,市場原理路線は大きく変更して,国が介入できる素地を作るべきである。