2024.06.07

政治

ダラダラ続く憲法審査会の審議-緊急事態条項で国会議員の任期延長は無理 24.06.07-

 今回は、6月6日(木)の憲法審査会の私のメモをそのまま報告する。この日は、午後1時から本会議で政治資金規正法の改正案の採決が行われた。そうした慌ただしい中、岸田首相が今会期中に憲法改正の発議をしたいと拘っているため審議が行われていた。私は昨年に続いて2年連続して委員になっているが、いわば枝葉末節にすぎない「緊急事態に国会議員の任期を延長する」ということに時間を費やしている。私はそこに再び強烈な嫌味の一撃を加えたつもりである。

以下発言要旨
『6/6 憲法審査会 篠原 孝 発言要旨
 ここ数年、我が国は非常事態なり緊急事態を想定した立法が目白押しだ。国家の存立、国民の生命・財産を守るための体制整備が必要なことは論を俟たない。

<目白押しの緊急事態関連制度>
 土地利用規制、経済安全保障の観点から特許の出願を国内限定にすること、地方自治体に対する国の指示権、セキュリティ・クリアランス制度、そして食料供給困難事態対策法と続いている(憲法審査会の緊急事態条項の議論もその一環であるが、ちょっと出すぎている感が否めない)。緊急命令で政府にいきなり強力な権限を与えるのではなく、それぞれの分野で平常時から穏やかに備えるというのが賢明な日本的手法であった。それで十分であり、好ましいことと考えている。
 そうした中、最近の緊急事態、2011年の東日本大震災と2020年のコロナ感染症と国会の関係がどうだったかをみてみる。

<世界の常識は緊急命令>
 前者では国会は事後に国会事故調を設けて、二度と再び大事故を起こさないように報告書をまとめた。後者では突然の小中学校の休校、飲食店の休業、アベノマスクと今思うとおかしな対策がとられたが、ほとんど国会は拱手傍観だったのではないか。こうしたことに気が付いた日本ペンクラブが「国会の空洞化に抗議します」という声明を出したのも頷ける。他の先進国ではこうした時にも法律を制定しており、ドイツではマスクの法的規制に反対してデモ暴動まで起きている。
 緊急事態にはやはり行政が先であり、緊急命令の制度が先だが、OECD加盟国のうち私権を優先する法体系である英米法を採用する英米加豪NZと日、ベルギー、ノルウェーの8カ国には元になる法がない。つまり、不思議なことに我が日本国は法律なしに何でもできてしまう国である。また昨年9月刊行の、国立国会図書館(立法考査局)の「諸外国の憲法における緊急事態条項」を熟読したが、緊急命令の紹介が大半で国会議員の任期延長など二の次だった。

<モノのわかった日本国民>
 3.11時、相当な被害であるにもかかわらず、暴動も何も起こらず、淡々と対応した日本国民に世界が驚嘆した。政府が変なことをしても、国会がボッーとしていても、日本国民は世界一モノのわかる落ち着いた国民であり、緊急事態への対処を知っているのではないか。

<裏金で政府不信が渦巻く中で、憲法改正発議などできるはずなし>
 私は前にも申し上げたが、栄えある憲法改正の第一歩が緊急事態における国会議員の任期延長では、その立派な国民に笑われるのではないかと危惧している。まして、今裏金事件で国民の政治不信が高まっていて、国民の共感を得られない憲法改正案を発議しても、拒否されるのがオチで、その後しばらく憲法改正できなくなってしまうのではないか。私は憲法改正を急ぐみなさんの立場に立って危惧している。

<解散と緊急事態>
 そしてまず大前提として初歩的質問が二つある。大規模自然災害などによる選挙実施困難事態は一体どのようにして決めるのか。誰が発議しどこで決めるのか。
次に、首相の解散権とその正反対の任期延長との関係である(私の頭の中で整理がついていない)。
 そういう困難な事態に、例えば野党勢力や与党であっても時の政権にいろいろ注文をつける国会が煩わしいと感じた独善的首相が意図的に解散して、議員資格を失わせ、新しく選ばれた与党が圧倒的多数の国会で内閣が好き勝手な政策を実行するという事態こそ危うい事態といえるのではないか。

<緊急事態にわざと解散する首相もいる>
 (それだけ国会機能の維持が大切だというなら)国会が危機的状況にある時には、国会議員の任期延長の前に解散権を行使できないようにしないとならないのではないか。恣意的な解散こそが、国会機能を停止させる1番の危険なことだからだ。困難な事態に平気で解散権を行使する首相がいないともかぎらない。だから、緊急事態の任期延長の前に7条解散に歯止めをかけておくべきではないか。2017年秋、安倍首相は「国難突破解散」と称して、それほどの危機でもないのに国民を煽って解散している。首相の専権だといって解散権を振りかざす例は、2012年秋の野田佳彦首相にもみられた。
 国会議員の任期延長は7条解散のことを考えるとこのように矛盾をはらんでおり、とても起草する段階ではない。

<臨時会の開催要求から20日以内に開会はコンセンサスが得られている>
 私から憲法改正を早くしたいという皆さんのために、実現性の高い提案をしたい。寺田委員が数回前に提案されていたコンセンサスが得られるものから順次改正をとの指摘は全くその通りだが、緊急事態条項はそれに入らない。それに対し今すぐにでも議論が深められるものとして、石破さんも何度か主張されているが53条の臨時会を要求があってから20日以内に開会する改正がある。異論のない他のものもまとめて発議し、岸田首相の花道をセットしてもよいのではないか。』
発言要旨ここまで

 その場にいた委員はいつもの繰り返しの発言と異なったせいか、ザワつきながらシ-ンと(?)聞いていた。これに対し、①緊急命令を先行しろという発言が野党から出るとは思わなかった(といった誤解、私はそれぞれの法津でやっている日本の手法がいいと言っているだけ)。②53条の改正は、憲法改正案に書いてある(立憲民主党は法案を提出している)。私は再び旗(ネームプレート)を立てて2度目の発言の用意をしたが、時間がなく指名されなかった。
 今国会はあと2週間。とても憲法改正発議をできる状況ではない。

<岸田首相のこだわる憲法改正>
 岸田首相は政権に就いてから首尾一貫として、任期中の憲法改正の発議と言い続けている。「政治とカネ」に一段落着け改憲議論を前進させたいとのことだが、とてもそんな段階ではない。第一自民党内でも、参議院側では衆議院の審議に怒っている。緊急時に国会の役割を果たす参議院の緊急集会という仕組みを軽んじていることが原因である。
 そうした中、中谷元筆頭幹事は、緊急時の国会議員の任期延長のため、反対する会派(立憲、共産)も含めた、懇談会を開催し、条文起草作業につなげたいと提案したが、維新、国民からはやる気があるのかと攻められ、立憲、共産からは大反対され進捗する気配がない。
 そこに追い打ちをかけるように、立憲の参議院は憲法改正など進めるなら「政治とカネ」をはじめとする参議院の法案審議に応じないという。
 ここでも岸田政権は身動きがとれなくなっている。今後の政局からは目を離せない。

投稿者: 管理者

日時: 2024年6月 7日 17:10