2025.06.09

農林水産

【トランプ関税シリーズ④】【令和の米騒動シリーズ③】国民は小泉新農相の2,000円の突破力に期待 -コメの輸入を口にするのは失言を超えており先行き不安ー

<繰り返される閣僚や野党のパフォーマンス>
 5月29日、小泉新農相が美味しそうにコメの食べ比べをし、古古米を当てているシーンが報じられた。私はかつての菅直人厚労相のカイワレダイコン、中川農相クローン羊の試食を思い出した。店頭のコメが2倍の4000円/5㎏を超え、史上最高値を記録している中で、2000円/5kgで売られ始めた備蓄米が、少しでも安く売られる突破口になるのか、行先不明である。

 この絶好機を野党は放っておくはずがなく、とってつけたように野田、前原、玉木の3野党党首が束になって小泉農相に飛び掛かった。参院選を前にして小泉農相のパフォーマンスに対抗してみたものの、日頃愛農精神(?)に欠ける者の質問を、少なくとも農民は冷ややかに見ていただけだろう。

<なるべくしてなった小泉農相>
 小泉氏は10年前、2015年10月23日、安倍政権の下、農政のことはよくわかっていないのに、突然農林部会長に指名され、自民党農林族ばかりでなく世間をアッと驚かせた。
 小泉氏はその後国会改革に取り組んだり、ライドシェアを推進したりするなど、いろんな場面で活躍し、環境大臣に抜擢された。私はずっと環境委員会に属していたので数回質問に立った。小泉環境相には守ってやらなくては、という情心が生じ、環境相から首相への途を切り開けといった応援質問になったことさえあった。
 コメの高価格をうまく沈静化できれば、ポスト石破の一番手になりうる。全国民注視の下、彼の正念場である。石破首相に次いで農相経験者として、そして私がヨイショした環境相経験者として初の首相の座についてもらいたいと願っている。

<さすがの突破力、発信力>
 就任後すぐに2000円/5㎏を打ち出した小泉農相に国民の65%は期待している(日経世論調査)。数日前に石破首相がせめて3000円にと言っていたのに、そのハードルをすぐに上げたのである。なんと勘のいい政治家かと感心する。やはり小泉純一郎の息子である。
 野党はこぞって突然の随意契約はおかしいとして、つっかかっているが、江藤農相が備蓄米を放出したのに、2ヵ月以上経ってもさっぱり値下がりしないのだから、通常のやり方では目的が達成できないのは明らかである。大手の流通業者に2000円/5kgでの売りを義務づけた上での売却という荒っぽい手法である。コメが一挙に2倍に上がることこそ緊急事態には荒療治が必要であり、小泉法でいくしかあるまい。

<日本の農村の衰退と米ラストベルトの崩壊は同じ>
 今の高米価の鎮静化は小泉農相の手腕に任せるとして、今後のことについて要点を述べておきたい。
 まず、輸入拡大も選択肢の1つだというのは、私には「コメは売るほどある、買ったことがない」と言った江藤前農相以上の軽率な発言に思えてくる。
 皆気付いていないが、自由貿易を守るという「見栄」を張り続けたために、アメリカの製造業は完璧に空洞化したのである。そして、日本で同じように競争原理に任せ過ぎたためにガタガタになったのが、農業・農村である。双方とも「自由競争」という美名の下に潰れてきたのは同根であり、慎重に考えていかなければならない。

<米国は反省し方向転換、まだ気づかぬ日本>
 そのアメリカが国家的危機を乗り越えるには、工業製品も地産地消にしなければならないとして、ドサクサに紛れて、鉄鋼関税を25%にしたと思ったら、日本製鉄の米国製鉄(USスチールの日本語訳)の買収に絡めて50%にしている。「鉄は国家なり」(ビスマルク)、「産業のコメ」という鉄の国内生産を復活させようとしているのだ。
 それを本物のコメをこの高米価という混乱の中で、おめおめと外国アメリカに譲り渡すなど愚の骨頂である。トランプ流に日本の農業・農村の再興は高関税の外にないと、反撃すべきなのだ。麦・大豆・ナタネ・牛肉・オレンジ・木材を今まで関税をゼロ近くにして譲りまくってきたことを反省して、鉄鋼並みに50%の関税をかけて、農水省予算を倍増する一助にすることである。

<アメリカの労働者が共和党に流れた、日本の農民も野党に流れる>
 小泉農相も今はどうも都会の消費者の方ばかりに目がいき、農民のズタズタにされた気持ちを逆撫でしているように思える。今までの世界の潮流・自由競争原理を覆さんとしているトランプの強烈な意思、そして、それを支持しているラストベルト地帯の労働者のことを考えたらいい。かつての民主党の支持者が一斉に(共和党というより)トランプの支持者に乗り換えたのである。このまま行ったら自民党の岩盤支持層に変化が現れるかもしれない。

<論壇のワンパターンの狂い>
 一時しのぎのためにコメの輸入増をなどといった安直なことを考えているとしたら、とんだ大間違いである。
 各紙の論説も小泉農相もそして石破首相も判で押したように同じご高説をたれている。

①今までの農政が間違っている。生産調整を阻止して、自由に作るべきである。ただし、自由に作っておいて買い上げはない。
②生産者は需給を考えて生産すべきである。
③和食ブームであり、余ったら、輸出すればよい。

よくこういう綺麗ごとが口からでてくると思う。
 一体誰に需要がわかるのか。昔は食管法の下、過不足なく国民に行き渡るようになっていた。それをよってたかって規制を一切なくしたのは、どこの誰か。経済界もマスコミも声高に競争原理を叫び、そして安ければよいとする国民も黙認していたのである。
 普通の国では、国民生活に不可欠な食料には何かしらの政府の統制がある。それを日本はスッカラカンにしたのである。それを他人事のように需要に合った生産といい、それをしなかった農民や農協が悪いと言い出す。政府の大チョンボはあるが、農民は犠牲者であり、その証にコメ農家は激減している。そして、これこそが今回のコメ不足の一大要因なのだ。

<農業を見捨て続けてきた自民党>
 「生産調整をなくしてコメを増産する、余ったら外国に」などという、それこそ能天気な声がよく出てくるなと思う。今でも341%の関税をかけて守っている。日本のコメは国際価格と比べて高い。どの国が日本のコメを買ってくれるのか。
 日本国民が食べる全てのコメ、約700万トンをアメリカから輸入したとしても(カリフォルニア米の輸入価格とアメリカの一般価格150円/kgとすると)70億ドルぐらいにしかならない。アメリカの685億ドルの対日貿易赤字の解消には程遠い。そこまで農業・農村を痛めつけたら気が済むのか。

<コメも工業製品も地産地消>
 やはり食料は、特に必需品は地産地消がベストなのだ。工業製品すら地産地消をしようとしている大国アメリカがある中で、唯一守ってきたコメを世界の競争に晒すなどという暴挙はあり得ない。アメリカにやり返すべく、農業を守る方向に政策転換しないとならない。
 EUの農家収入の8割は国の所得補償である。アメリカの中西部の穀物農家の収入も半分は政府の補助金である。一方日本は政府予算が115兆円と大きく膨らむ中、農業予算を私の現役の頃の4兆円から2兆円に減らしている。つまり、自民党農政は農業をほぼ見捨ててきたのである。その反省もなくコメ輸入を選択肢の1つというのはどこかネジがくるっている。

投稿者: しのはら孝

日時: 2025年6月 9日 16:17