【トランプ関税シリーズ③】トランプ大統領は、日本の農産物の輸入拡大をさせたとパフォーマンスをする恐れがある - 共和党の岩盤支持層の農民へのサービスで日本が妥協させられるかもしれず - 25.06.08
<トランプ大統領の支持者>-農民
トランプ大統領の支持層の一つに、田舎の農民がある。技術革新、機械化により農業生産は拡大したが、農家戸数は減少し、隣人が消えていった。日本と同様にグローバル経済の進展から取り残され衰退の一途の地方の住民、なかんずく農民が、関税を上げ、移民を排斥し、武力をかさに、グリーンランドを領有する、パナマ運河をただで通行させろ、カナダは51番目の州だ・・・といったトランプ大統領のタカ派的主張に溜飲を下げているのだ。
<中国の報復関税には補助金で対応>
もう一つ、第1期のトランプ政権の2018~19年にかけての米中貿易摩擦のとばっちりで、中国の農産物関税引き上げによる農産物輸出の縮小には苦い経験があるが、約270億ドルの輸出縮小に対して、約230億ドルの補填をして農家の不満を和らげている。だから、今度もそうしてくれるだろうという安心感、期待感がある。
トランプ大統領にとっては、貿易赤字の主因のハイテク機器や鉄鋼・アルミ、自動車といった金額の大きいものが関心の的であり、中国にトウモロコシ、大豆、小麦等の金額の小さいものに報復関税をかけられても痛みを感じないのだ。だから、平気で中国に対抗するだろう。そして、それをまた補填すればよいだけの話である。ただ前回は1期目であり、再選のためには農民を怒らせることができなかったが、3選目が憲法で禁止されており、もう選挙のことは配慮する必要がない。何事につけ勝手なトランプ大統領は忠実な支持層の農民も見捨てるかもしれない。
これが不動産取引でのし上がったトランプ大統領の得意な手法である。そこには血も涙もないかもしれない。
<1期目でも日本の農産物輸入にトバッチリ>
前回は、中国への農産物輸出を止められたトランプ大統領は、代わりに日本への輸出拡大を図り、それを安倍首相にのませた。更にアメリカはTPPに入らず関税ゼロを回避したうえで、別の日米貿易協定で、牛肉、豚肉の大幅市場開放をさせるなど、農産物の関税をTPPレベルはおろか、それ以下に引き下げている。もちろん中国の代替にはとても及ばなかったが、トランプ大統領のやっている感は大いに演出ができた。日米首脳会談の場にカウボーイハットをかぶった農業関係者までもが登場したのである。どこでもやる政治家のよくないパフォーマンスである。
<私だけが予測した「アメリカは最後にTPPに加盟せず」>
私は反TPPデザインのネクタイとバッジをつけ続けてTPP反対派の急先鋒だった。そのTPPの謳い文句は「関税ゼロ」である。そして、途中から私は、アメリカは絶対にTPPに入らないと確信を持つようになった。そのことをTPP対策特別委員会の民進党の筆頭理事として委員会の場でも質問の中に入れて見解を表明している。今トランプ大統領の相互関税でやっとその考え方が理解できると思うが、当時は誰も一顧だにしなかった。なぜならP4と呼ばれていたNZ、シンガポール、ブルネイ、チリの関税ゼロの協定にアメリカも入れてくれと懇願し、その場を活用してアメリカの仕組(知的財産権等)を各国に押し付けんとしていたのは、他ならぬアメリカだったからだ。(しかし、アメリカは日米構造協議の延長で、日本の仕組を変えて国力を弱めることが目的だったのだ。)その一方で関税ゼロにしたら、それこそアメリカは何でもかんでも輸入品で溢れる国になってしまい国内産業がなくなってしまう。だから最初からTPPに入る気など全くなかったのだ。
<ロリンズ農務長官の訪日は鬼門>
3月の所信表明でトランプ大統領は、「私は農家を愛している。新しい貿易政策は米国の農民にとって素晴らしいものになる。少しの調整期間を我慢してよりよい未来を楽しみにするように」と訴えた。
その2日前にロリンズ農務長官はアイオワ州を訪問して、相互関税について説明している。今後6カ月の間に、印、伯、日、ベトナム、ペルー、英の6か国を訪問すると発表。日本は多くの主要農産物で輸入額の上位5位にある。このことを承知の上で、日本市場で米国の農家に利益をもたらすように主張するつもりだと述べている。やはり、農民層の支持を気にしているのだ。
<農産物が自動車の犠牲になってはならず>
そして問題の日本である。今再び、コメは守るが、大豆とトウモロコシの輸入は拡大すると、農産物を差し出している。私には、まさにデジャヴである。何年も前から、何回も日本は工業製品を輸出しやすい環境を維持するため、農産物を献上してきたのである。
トランプ大統領には、日本は何でも言うことを聞いてくれる「いい国」にしか映っていまい。2014年の日米貿易協定で自動車の追加関税という脅しにおののいて自動車関税を2.5%のままにし、トラックだけを25%にした成功体験をしっかり覚えているのだろう。そしてまた2匹目のドジョウをひきだそうとしているに違いない。いざとなれば、また得意の「安全保障タダ乗り論」を振りかざして、日本に妥協を迫るに違いない。
<バンス副大統領のラストベルトへの気配り>
4/2 相互関税の発表の翌朝、バンス副大統領候補は、TVインタビューで自分の故郷の労働者に向けて「過去40年もの間、米国内の工場は次々と廃止され、製造が他国に移り、米国市民は家も買えない状態が続いてきた。自分もそのような家庭に育った」と強調。「状況は一夜にして変わるものではないが、これまで国外で行われてきた製造を米国にシフトする経済政策で、労働者の懐に現金が戻って来る」と相互関税の狙いを説明した。
私は、この中西部の労働者を日本の農民・農村に置き換えてみるとその気持ちがわからないわけではない。それをもじってみよう「過去半世紀以上(1960年代以降ずっと)、日本の農産物は次々と自由化され、その生産は他の国に移っていった。まず木材、そして大豆、ナタネ、小麦といった主要穀物、ついで政府も推奨した柑橘や牛肉も次々と外国からの輸入にとって代わられた。その間に農村からは人がどんどん流出し、人口減少が進み、中山間地域は高齢者ばかりの集落となり、今まさに消え去る寸前である。このままでは、折角守ってきたコメの生産も覚束なくなる。これまで、他国に流れきた農産物生産を日本国内に取り戻す農政で、農民の懐に現金が戻り、農村で暮らしていけるようにしないとならない」ということになる。日本はこのような大胆な地方振興策を断行する政権を一刻も早く造らないとならない。
<日本の農民とアメリカ中西部の労働者は救われなければならない>
こんなことが繰り返されたら、コメを作る農家がいなくなり、日本の農業・農村はなくなってしまう。そして、日本の食料安全保障はガタガタに崩れ、アメリカの前に日本社会が弱体化し、取り返しがつかなくなってしまう怖れがある。
日本は絶対に安易な妥協をしてはならない。なぜならば、中西部のラストベルトの労働者以上に、ずっと苦しめられ続けてきたのが日本の農民だからである。そのどうしようもない痛みは、共通であることを米国側に認識させなければならない。そして、交渉の際にはお互いに痛みをなくそうと語りかけ、アメリカ側に妥協を迫ってもよいと思う。