2025.06.10

農林水産

【トランプ関税シリーズ⑤】【令和のコメ騒動シリーズ④】トランプのお株を奪いアメリカ農産物に 高関税をかけて日本農業を再興する ―トランプが相互関税を引っ込めないなら日本も対抗措置が必要ー

<見捨てられた中西部のラストベルトの労働者と日本農民の共通性>
 日本の農民は、木材の関税ゼロから始まり次々に輸入自由化をしてきた日本国政府に愛想をつかしている。自分たちが見捨てられていることにとっくに気がついているのだ。その極めつきは、1993年に決着したガット・ウルグアイラウンドであり、コメのミニマムアクセスを認める大妥協である。守り続けてきたコメまで譲ったことに愕然として生産意欲を失ったのである。この精神的ダメージは大きかった。21世紀になり、日本がコメまで見捨てるのがわかり、農地面積も農家戸数も前世紀よりもずっとハイスピードで減り続けてきた理由がここに存在する。もっと言えば、2024年のコメ不足、米価高騰の遠因になっているかもしれない。
 アメリカ人の使うものは、アメリカで作れ、アメリカ人を雇って、アメリカの工場で生産しろというトランプ大統領の主張は、中西部のラストベルト地帯の労働者と同じく、日本農民の共感するところがある。だからこそ、トランプ大統領は再登場することができたのである。

<ラストベルトの労働者の救世主トランプ、日本の農民の救世主は?>
 外国製品に席巻されて、中西部の工業地帯は潰れ、人々は職を失ったのである。それを再生するために高関税をかけて外国製品を止めるというトランプ大統領が、景気の後退、為替市場の混乱等があるにも関わらず国民の支持を受けているのは、かつて民主党の支持者だった労働者が味方になっているからである。
 私は、トランプ大統領に倣い石破首相に、農村を起死回生させるために、木材に高関税をかけて日本の森を守り、コメ農家が安心して暮らせるようにあらゆる農産物の関税を50%にして、ひとまず農村を安心させ元気付けてほしいと願う。
 トランプ大統領の言うことをしっかりと受け止めて高関税を素直に受け入れ、その代わり、日本も同じようにアメリカに対して高関税をかけることである。その一方で、もう既にしていることだが、工業製品には関税などかけず、アメリカ産農産物に高関税をかける報復措置を講じることである。それぐらいの気概を持たないとならない。

<国際分業論、自由貿易の犠牲となったアメリカ>
 英米に端を発する、リガードの唱えた国際分業論・比較優位論に従い自由貿易を是として、その歪みが出たためブロック経済化して第二次世界大戦を起こしてしまった。そうした反省から、戦後は盲目的に国際分業論、自由貿易を推し進めてきた。その結果21世紀に入るとアメリカはとてつもない非製造業国、非工業国に成り下がってしまったのである。自由貿易の理論を徹底していたら、すべての製造業は低賃金国に行ってしまう。
 アマルティア・セン(インドのノーベル賞を受賞した経済学者)は、全ての国の賃金が同じレベルにならなければ自由貿易は成り立たず、ひずみが生じると説いた。そして今、それが現実化しているのだ。例えばアメリカの製造業は低賃金国の隣国メキシコに移ってしまい、その後14億人の低賃金国中国があれよあれよという間に世界第二の経済大国になった。

<アメリカのラストベルトを救い、日本のグリーンベルトを元の美しい田園に戻す>
 そのやっかみ、歪みを一挙に正すというのがトランプ大統領の高関税・相互関税なのである。一理あり、そうなるかなあと思うのは私だけではなかろう。だとすれば長らく世界をリードしてくれたアメリカに感謝しつつその目論見に加勢して、一日も早くバランスのとれた国に戻してやるのは世界平和につながるかもしれないのだ。
 一方で、相当偏った国になってしまったのが我が日本である。あまりにも自動車国家、工業国家になりすぎたのである。トヨタの売上2024年の45兆円は、日本農業全体の生産額8兆円の5.5倍になる。いびつな国になってしまったのである。つまり錆付いてはいないが、日本の地方全体がアメリカの「ラストベルト」と同じ状態になり、人口減少、過疎化が進み、ほっておいたら消滅市町村だらけになってしまう。かつては整然と耕された日本の田園風景に、一部の物の分かった外国人は、その美しさに目を見張った。ところが、今は耕作放棄され、草ぼうぼうで見苦しい「グリーンベルト」(雑草地帯)へと成り下がってしまった。
 このあたりで日本も果敢に国のかたちを正常な姿に戻す方向に変換しないとなるまい。つまり、トランプ大統領を見習うのだ。まさに日本にとっては国難であり、日本の高度経済成長を支える自由貿易体制は重大な危機に陥っており、そう簡単には元には戻らないと思われる。ここらで日本も観念すべきである。1945年8月と同じ重大な局面と心してかからなければならない。

<トランプ大統領に同調して、共に「地産地消」国に向けて歩み始める>
 関税というのは、そもそもそうした歪みをなくすために使われるべきだったのだ。つまり自国に必要な物を自国で生産するため、いくら他国が安く生産できても関税をかけて自国の生産を維持してよいものを、関税ゼロを金科玉条として推し進めてきたために、そこら中が歪な国家になってしまったのだ。アメリカは特に寛大で、今まで自国の弱い産業を守るために高関税をかけることをしてこなかった。そのかわり、自主規制を迫ったり、為替でごまかしたりしてしのいできたが、もう持ちこたえられなくなったので関税に手を付けたのである。日本も世界もここらで立ち止まり、もっと穏やかな国に戻すことを考えてもいいのではないか。世界の国々も、トランプ大統領のいいがかりではないが、アメリカ一国に歪みを押し付けるのは、やめていくべきではないか。

<中国には妥協しても、日本には妥協しくれず。もう方向転換するしかない>
 楽観視する向きは、日本の自動車への高関税は免れるかもしれないと思っているかもしれないが、ここまで来た以上は、仮に何番目かの合意が成立した国になっても、相互関税の基本税率10%は覆せないだろう。I-Phoneを中国で組み立てていることが当然視されたが、それを問題視して、アメリカでするようにしたらよい。
 アップルは今後4年間で米国内に5000億ドル(約72兆円)投資すると発表している。対中関税の影響を回避するためである。こうしてアメリカ国内回帰を進めることがトランプの狙いだとすれば、もう既に効果が出始めているのだ。ただ、その場合、アメリカは高賃金国であり、製品価格はかなり高くつくだろう。しかし、アメリカから雇用が中国に逃げ、貿易赤字が拡大していくよりはずっとましなことではないか。
 そういう意味ではトランプ大統領は、高関税・相互関税導入の日がアメリカを開放し、再生する記念日と言うが、我々もその日をもって過度なグローバリズムに別れを告げ、競争原理や成長にばかり目を向ける姿勢を改め、バランスのとれた国に向けて方針転換すると位置付けてもよいと思う。 

投稿者: しのはら孝

日時: 2025年6月10日 09:26