2025.10.07

外交安保

【25夏中国シリーズ④】中国の行き過ぎたプロパガンダには日本は抗議すべき -「南京写真館」「731」と2本の映画による抗日煽動はあまりに大人気ない-25.10.07

<賢い田中角栄、鄧小平、思慮不足の後輩政治家>
 海洋法上は経済活動をしている人たちが住まない限り島とは認定されないことになっている。だから、韓国は漁民夫婦を竹島に住まわせて自国の領土だと主張している。その点では竹島も尖閣列島も南鳥島も島とは言えない。
 尖閣諸島は小さな島に過ぎないが、そこに周辺の大陸棚に石油資源が眠っているということが分かってから、いろいろもめだした感もあるが、賢い我々の先人田中角栄と鄧小平は、「後世の賢い人たちに任せよう」と棚上げしていた。ところが1970年に台湾が領有権を主張し始め、中国が追従した。1978年に中国の領土だと明確に規定した。日本もほっとけばいいものを、石原慎太郎都知事が購入し、それにあわてた野田政権が国有化を宣言し対立が表面化した。それ以降、ずっと日中の神経戦が続いている。

<水産物と牛肉を止めていた中国がトランプ関税で態度豹変>
 通商貿易問題での、トランプ大統領の関税政策が、世界を大混乱に陥れているが、数々の別稿で述べているとおり、今までの過度な自由主義、グローバリズムに対して、自国民の使うものはなるべく自国で作る(つまり地産地消)という当たり前のことを言っているだけであり、各国とも大きく反論は出来ない。
 それに対して、福島原発の汚染処理水を巡り、日本の水産物輸入を全面禁止したり、とっくに峠を越えたBSE関係で、政府間では日本産牛肉の輸入解禁を約束したのに、事務ベースでは全く実行に移していなかった。尖閣諸島と同じ、一種の嫌がらせである。前二者は、トランプ大統領の高飛車な対応と違うところを見せつけるためか、何立峰副首相の万博来日時に解除され、輸出できることになった。つまり、中国は日本に秋波を送ったのであり、思いがけないトランプ関税政策の正の効果である。
 通商・貿易関係での米中の相互依存関係も抜き差しならぬものがあるが、それ以上に深い相互依存関係にあるのが、日中である。お互いに関係を拗らせたら経済的に大きな損失を被ることになる。最近急速に関係改善が進む、日韓関係と同じく、大人の現実的関係を続けるべきである。

<「南京写真館」「731」の2本には抗議すべし>
 米国は、1980年代、アイアコッカ・クライスラー会長が象徴的だったが、日本を狡い国といい、マスコミもこぞって日本製品、特に車を攻撃した。ハンマーで日本車をたたく映像が何度も流された。しかし、それ以降、日本悪玉論はそれほど出て来なくなった。米国も世論の支持がなければ外交も国内政策も実行できないので、密かに世論操作をする国であるが、中国ほど露骨ではなく、日本叩きの映画まで制作して煽動などしたことはない。
 それに対して好対照なのは中国である。日本軍のやったとされる南京大虐殺を題材にした「南京写真館」は、習近平政権のプロパガンダの一環である。8月25日、最終日の上海で「南京写真館」を見た人の話を聞いたが、残酷なシーンが続き、耐えられない内容だったという。9月20日現在 約600億円の興行収入を上げているという。そこに、批判の渦巻く731部隊を描いたそのものずばりの「731」である。
 731は従来題目通り数字に合わせて7月31日公開の予定が、もっと反日ムードが高まる満州事変そして日中戦争の発端となった柳条湖事件に合わせて、94年の節目の9月18日の9時18分に封切られた。こちらは、初日で約70憶円の興行収入に達した。関係者はどうも数字のゴロ合わせに拘っているようだ。21日までの4日間で230億円の大ヒットとなっている。(ちなみに日本で大ヒット中の「国宝」は150億円で邦画では史上3位の興行収入というが、いくら人口が10億の差があるとはいえささやかなものである)いかに抗日戦争勝利80周年といえ、あまりにとってつけた2本の映画は、やり過ぎである。官製メディアの一つ環球時報は「日本の侵略戦争の最暗部を見詰めており、国や言語の違いを超越した共感を呼び覚ます」と絶賛しているが、収容所内の花魁道中などあまりにもありえない描写が多く、書き込みサイト等でみられる観客の評価は厳しいものがあるという。とても大国の大人の振舞いとは思えない

<日本人が中国から立ち退くばかりになる>
 こうしたことは従来、韓国がひどかったが、尹錫悦前大統領の融和路線で、史上最高の友好ムードになっている。日本は中韓両国に戦前の非礼もあり微妙な空気が漂い神経を使わないとならなかった。それが今や両国の日本に対する態度には雲泥の差が見られる。
 情けないのは、中国に対しても韓国に対しても日本は全く受け身でしかなく、動かないことだ。韓国は尹前大統領が一方的に方向転換し、従来反日の急先鋒だった李在明大統領も昔の主張を封印して、現実路線を歩んでいる。
 24年にも中国視察中に蘇州で、日本人学校のバスが襲われ、それを阻止しようとした中国人女性が命を落としている。その後も同様の事件が起きている。中国当局は日本人学校の警備体制を強化したりしているが、一方でこのような煽動的映画を放置していては2国関係はうまく行くはずがない。中国で暮らす日本企業の駐在員、家族、留学生は20年振りに10万人の大台を切り、約15万人だったピーク(2012年)と比し35%も減少した。これで日本に中国へ投資を拡大してほしいといって無理な話である。

<抑制の効いた対応をする日本の2つの満蒙開拓映画>
 80周年は何も中国ばかりではない。日本では満州開拓を取り上げた2つの映画が上映されている。一つは、侵略するソ連軍の性接待をさせられた「黒川の女たち」である。中国と違い、ソ連軍をなじるのが目的ではなく、淡々と戦争の無慈悲さを描いている。もう一つは、「大日向村の46年、満州移民・その後の人々」(1986年)である。こちらも戦争への空気をいさめる内容である。もちろん、米国の原爆投下を糾弾するプロパガンダ映画など作るはずがない。その意味で日本は第2次世界対戦の愚かさを深く反省し、大人の対応をしているといえよう。その逆に、米国は原爆開発者の中心人物を描く「オッペンハイマー」を作ったが、今ウクライナ、ガザで民間人への攻撃なり巻き添えが国際的な非難を浴びている。それにもかかわらず、広島・長崎で20~30万人余を一気に殺傷したことへの言及、反省は全くなかった。

<米中の暴走を許さず諫言していくべき>
 中国の行き過ぎに対して、日本国政府として意見を言い、韓国には絶好機なので積極的に手を携える外交を展開していくべきである。それに加えて、米国にいつまでも原爆投下は戦争を早期に終結させるためには必要だった、などという言い訳をいつまでもさせておいてはなるまい。だから、国防省を戦争省にするなど暴走し出す。戦争終結省とでもするなら、ノーベル平和賞にも値しようが、真逆では論外である
 大国中国も大国米国も、弱小国に配慮した大人の行動を取らなければいけないのにもかかわらず、逆なのは甚だ遺憾である。黙っているだけでなく、友好国として両国に対しておかしなものはおかしいと指摘し、理不尽な要求は厳然とはねつけ、諫めるべきは諫め、毅然とした態度をとっていくべきである。

投稿者: しのはら孝

日時: 2025年10月 7日 12:41